勝手にキャンプ大会
今年も恒例の「勝手にキャンプ大会」が終了した。先日、日経新聞の人が取材に来て、旅行人の創刊からの活動について話をしたのだが、その際に、うちでは読者とキャンプ大会をやっているというと、大変驚いていた。こういうことはまあ珍しいことなのかもしれない。
なんで、キャンプ大会などをやるようになったのか。実は、私はアフリカを旅するまではキャンプなどまったく興味がなかった。旅行の前にキャンプをやった経験はただ一度だけである。それがアフリカを旅するのにはキャンプが最も安上がりであり、ところによっては宿がない場合もあるので、旅をする上でテントや食料を常備する必要があった。
だが、やってみると、これが意外におもしろい。宿を探す必要もないし、自然の中で寝起きするのも気分のいいものだった。それでキャンプのおもしろさに目覚め、日本でもキャンプをしてみようと思い立ったのだ。どうせやるなら読者といっしょにやったらどうだろうと考えた。自分も楽しむためのキャンプなので、参加費などはなし。勝手にキャンプ場にきて、自分でキャンプ料金を支払い、適当に集まって行う大会なので「勝手にキャンプ大会」ということにしたのである。
キャンプ場をどこにするかが問題だった。第1回は友人読者の紹介で、栃木県の那珂川沿いのキャンプ場で行った。1995年のことだ。ここが料金も無料でよかったのだが、釣り人がキャンプしているので、夜間に騒いでうるさいと苦情が出て、1回だけでやめてしまう。次の開催場所を探さなくてはならない。
当時、東小金井で「原っぱ祭り」というイベントが開催されていた。テント持参で一度だけ参加したのだが、そこに藁葺きで円錐型の小屋が建っていた。アメリカ先住民のティピーのような形だが、それを建てた人に話を聞くと、アイヌ民族の小屋だという。彼は山梨の忍野でキャンプ場を運営していて、そこにもそういう小屋を建てているそうだ。実は、数百人が集まれるようなキャンプ場を探しているんですけどというと、うちならその人数でも可能だよ、設備は豪華じゃないけどという。一度場所を見においでよといわれたが、現場チェックもしないで、電話で予約して2回目をそこで行い、以降、延々とここ「檜丸尾入会の森キャンプ場」で行うようになった。
当初、なんとなく5〜6回ぐらいやればいいかなと漠然と思っていた。最初の参加者は、正確に覚えているわけではないが、100人ぐらいだったんじゃないだろうか。それが徐々に増えていき、4、5年目になると400人以上の人がキャンプ場に集まった。檜丸尾入会の森キャンプ場はかなり広い。それなのにキャンプ場がいっぱいになって、キャンプ場へのアプローチ(幹線道路から約1kmある)の道の脇にもテントが張られ、入りきれなくて帰ってしまう人もいたほどだった。
この頃の参加者には、わけのわからない連中も多かった。テントも持たず、食料も持参せず、ここに来れば世話をしてもらえると思ってやってくるのである。勝手にキャンプ大会は、私たち旅行人が催し物などをやるわけではない。勝手に参加者各々がキャンプを楽しみ、語らうというのが主旨である。なのに、何にもやらないと不平不満を言い出す輩も出現した。正直言って、多すぎる参加者は負担だった。あまりに多いようならやめようと思ったほどだ。キャンプ場に入りきれないほどの人が押しかけてくるのは危険だし、何の用意もしてこない奴の面倒をみるのもばかばかしい限りだ。
だが、幸運にもそれをピークに、参加者は少しずつ減少していった。催し物が何もないので退屈だという人は翌年からは参加しなくなった。そういうものがなくてもいい、ただのんびりとキャンプして、酒でも飲みながら旅の話でもしたいという本来のぞんだキャンプ大会になっていったのだ。それでも10年以上、100〜200人ぐらいの人が参加していた。
以前は民俗衣装大会を行ったことがある。旅先で派手な民俗衣装を買い求めても、日本ではなかなか着るチャンスがない。それをこのキャンプで着て、みんなにご披露しようという主旨である。それで、世界各地の民俗衣装を着た参加者がこの入会の森に集まった。すると、何か怪しい集団がいるというので、警察がやってきて読者が訊問されたというハプニングが発生した。オームに間違われたとか、反対運動の集団ではないかと疑われたとか、なぜ警察がきたかは今でもわかっていない。
このキャンプで知り合って結婚し、子供が生まれて、子連れでやってくるようになり、やがてその子供も成長して親と一緒にキャンプなんかしないようになる。その頃には、また新しい世代の子供たちが森の中を走りまわっている。そういうことが続いたキャンプ大会であった。16年もやることになろうとは思ってもいなかったが、そのキャンプ大会も、いよいよ来年が最後になる。もしかしたら、キャンプ場も閉鎖されるかもしれない。
率直に言って、お湯も出ないし、ぽっちゃんトイレだし、電気も来ていないしで、近頃のキャンプ場にしては設備がいいとはいえないキャンプ場である。だが、放任主義で焚き火も花火も自由にやらせてもらえて、広く涼しい森の中でのんびりするのには最高だった。このキャンプ場に巡り会えたからこそ続けてこれたのだ。
来年の夏、最後のキャンプ大会、入会の森でお会いしましょう。