130年後にベストセラーになった『ある奴隷少女に起こった出来事』

 何かに紹介されていたある奴隷少女に起こった出来事という本を読んだ。タイトル通り、アメリカ南部に奴隷として生まれ育った黒人の少女が、その境遇から脱出していく波瀾万丈の物語だ。そのまま映画になりそうなほどドラマチックな話で、この手記が発表された1861年当時は、読んだ人々が誰も実話だとは信じなかったそうだ。そして、無教養なはずの黒人奴隷がこのような文章を書けるはずがないから、白人の誰かが書いたフィクションだと思われ、ほとんど注目を浴びないまま忘れ去られていったという。
 一度は忘れ去られた本が、現代に再発見されたのは偶然による。奴隷解放運動家が残した古い書簡を、ある歴史学者が読んでいたとき、書簡の中に、本の作者である少女の手紙を発見した。この歴史学者は、以前に少女の手記を読んでいて、その手紙が手記の内容とまったく矛盾しておらず、作者不明のフィクションと思われていた手記が、本当のことが描かれたリアルな物語であることがわかったのだ。そうやってこの手記は、発表されてから126年後の1987年に出版され、徐々に注目を集めるようになって、やがてベストセラーになったらしい。
 本書に描かれている奴隷制のあったアメリカ南部諸州は、今見ると残酷極まるものだが、KKKなどという団体があるのは、こういう差別的な精神構造の連中が今でもいるということだろう。本多勝一は、1960年代に南部アメリカの街を、ユダヤ系の男と黄色人種が連れだって歩くのは危険極まる行為だったというようなことを書いていた。
 死後に注目を浴びることになってしまったのは、少女にとっては残念なことだったが、書かれている内容は、人種差別、ジェンダーといった現代でも通用する問題だ。当時は信じてもらえなかったのもうなずけるほど手に汗握る物語は一気読みするほどおもしろかった。