私のカレー作り

 4月20日に出る予定の『アジア・カレー大全』が、ようやく印刷屋に入った。うちとしては初めての「食べ物本」だが、書店で見かけたらよろしくお願いします。

 というわけで、カレーの話。よく「カレーは男の料理」という言葉を聞く。男は何かとカレーを作りたがるのだ。もちろんカレーが好きだというのが最大の理由だろう。しかも、カレーは失敗しにくい。固形ルウを使ってパッケージに書いてあるとおり作る限り、ほとんど失敗しない。

 さらに男向きなのは、作ってみて初めて感じたのだが、結局カレー料理というのは「炒め物」であるということである。とにかくひたすら炒める炒める炒めるだ。そのあと長く煮るだけ。時間はかかるけれど単純な調理だ。しかし、そのあいだは台所にへばりついていなければならない。だから力があって、ひまなときに台所にカレーだけのためにへばりついていられる男向けということになるのではないかと思う。

 以前はよくカレーを作っていたんだけど、最近ぱったりご無沙汰している。正直言って自分の作るカレーの味に飽きたのだ。違うカレーなら食べたいのだが、私は「ケララ・カレー」という名前のやつばっかり作っているので、さすがにこれにはちょっと飽きてしまった。

 「ケララ・カレー」といっても、南インドケララとはほとんど無関係。あの南インドケララ州のカレーの味だったら、今でも飽きてはいないと思う。のだが、それはともかく、それじゃなんでそればっかりなんだ、他にもカレーはいろいろ売ってるじゃないか、あるいはレシピでも見て他のカレーを作ればいいじゃないかとお思いのことであろう。

 まず、他のカレーといっても、いわゆる固形ルウを溶かして作る一般的な日本のカレーは、あまり僕の好みではない。いや、嫌いではないし、出されれば喜んで食べるんだけれど、自分で作ろうという気にはなれないのだ。固形ルウではないタイプのカレーは、ほとんど売っていない。僕の知る限り、他に「カレー・ブック」というのがあるんだけど、実はこれもさんざん作って飽きてしまった。

 では、レシピを見ながら、香辛料を使ったカレー作りはどうか。これができれば文句はないのだが、ホントにこれは難しいんですよ。私、幾度もレシピを見ながらチャレンジした。スパイスをひとつひとつ計って、レシピの通りにやっていると、そんなものはテキトーでいいんだと小川京子などはいうが、そんなことをしたら絶対に失敗する! って、その通りにやっても失敗するのだ。率直にいって私の作ったカレーはヒジョーにまずい。

 小川京子は、これでカレー作りをやめてもらっては困るという思惑もあるから、食べられないことはない、まあまあだ、などというが、ぜんぜんうまくないよ。なんでレシピ通りに作っているのに、うまくないのだ。

 インド人のプロ調理師にその疑問をぶつけると、いくらレシピ通りにやっているつもりでも、スパイスを入れるタイミングや、炒める時間の違いで味は変わってしまうという。特に肉やダシを使用しないカレーは、そのさじ加減が難しいのだ(結局私は固形ブイヨンを秘かに投入する。するとなんとか食べられる味に仕上がるが、やはりこれはブイヨン・カレーに過ぎない)。

 というわけで、今のところ私のカレー作りは頓挫しているが、もう少し余裕ができたらまた挑戦したいと思っている。夢は、野菜とちょっとの香辛料しか使わないで作る家庭のカレーの味だが、まあ、無理だろうな。