ポルトガルの旅(1)モンサント

 私は今、ポルトガルの田舎町モンサントにいる。ここは巨岩の家で有名なところで、大きな岩を構造体に組み込んだ家々が軒を連ねている。どのガイドブックにも「ポルトガルで最もポルトガルらしい村」に選ばれた村であると説明があり、ポルトガルでも有名である。

 30分もあればすべて歩いてまわれるほど小さな村だが、観光地なので村全体に無線LANが飛んでいて、こうやってブログを更新できる。しかし、残念ながら電波が弱くて、容量の大きいデータは途中で切れてしまうので、写真をアップすることはできない。

 村をまわっていると、見かけるのは老人ばかりだ。若者はどこへ行ったのか聞いてみると、リスボンポルトといった都会に出てしまい、帰っては来ないのだそうだ。過疎なんですね。老人ばかりが100人ほど住むこの小さな村は、廃墟も目立ち、そういったところは出ていってしまったまま帰ってこない家族の家だそうだ。

 だとすると、この村の10年後、20年後はどうなってしまうのだろう。村の人はいう。20年後どころか、5年後には住民は半数になり、10年後には誰もいなくなってしまうだろう。現に、そうなってしまった村がこの近辺にあって、住民は誰もいないが、観光客だけが訪れるという。そのためにレストランやカフェを営業する人も毎日その村へ通うのだそうだ。住んでいるわけではないらしい。

 ポルトガルは今や国そのものの経済が弱っているが、特に沿岸部に較べると、内陸部は取り残されている。政府もまったく投資しない。こういう山間部の村々も高齢化が進み、過疎化が進み、無人化する村が増えているのだ。いわゆる「限界集落」というやつだ。なんだか日本の話をしているみたいですね。

 これまでポルトガルらしいといわれている山間の村を訪ねてきた。モンサラーシュやマルヴァオンといった村々は観光地として知られているが、実際は高齢化が進んで、すでに村そのものは博物館のようなものになっている。普通の人々が普通に暮らすことはなくなっているのだ。逆に観光地になれたから、村が存続できているわけだ。

 ポルトガルの田舎は極めて交通の便が悪い。ローカル交通は一日に2本しかないなんてことが珍しくない。これもまた日本の田舎と似ている。私の田舎もバス会社は赤字で、自治体の援助がないとやっていけないし、バスなんて一日数本しか走っていない。そんなところは珍しくないだろう。ポルトガルでも事情は同じで、バスに乗ってみると、乗客はまばらで、老人と学生しか乗っていない。だから、バスの運行は学校のスケジュールに合わせて決められている。

 というわけで、こういう村に住民が住んでいる光景を見られるのもあと10年が限界である。それ以降は、観光客を相手に儲かると踏んだ人が設備投資し、維持できれば、その後も観光客が見物できる博物館村が存続するのだ。それはもう村とは呼べないのだが。しかし、しょうがないといえばしょうがない。

 モンサントが「最もポルトガルらしい村」だと賞賛されたのは、1938年のことだ。それが今でもガイドブックに書かれているが、もう70年も昔の話である。おそらく当時の活気あふれたころ生まれた人が老人になっているのだから、今はもうまったく事情は変わっている。70年前から変わらずにあるのは、巨岩の家だけだ。それから村は少しずつ死に絶えていっている。生きている村が見たい方は早めにいらっしゃることをおすすめします。