インドでスマホを使う

 旅の準備でデジタル機器について書いたので、今回はその結果をご報告したい。

 インドに着いて、すぐにSIMカードを購入した。Vodafonのカードでインド全国をカバーする。28日間有効で、データ通信は1日1GB、会話は無制限で600ルピー(約1000円)だからかなり安い。前回はスマートフォンが旧型だったのでつながらなかったが、今回は(簡単にとまではいかなかったが)きちんとつながって、ちゃんと使えた。

 ホテルのWi-Fiは電波が弱くて、ネットをみたり画像をアップするのに一苦労するが、こうやって自分でテザリングできると、Wi-Fiがないホテルでも簡単に通信できるので楽だ。今回は、ジャールカンドを旅したが、多くの旅行者が行く場所ではないので、ホテルにもほとんどWi-Fiはなかった。田舎町から乗り込んだバスの中から、日本に電話できたり、撮影したばかりの写真をSNSにアップするのも新鮮な体験だった。

 いちばん期待したのはグーグル翻訳だ。ジャールカンドではほとんど英語が通じない。私はヒンディーが話せない。ホテルに泊まったり、バスに乗ったりするのは言葉が通じなくてもなんとかなるが、村へ行って絵の意味を聞こうとすると、通じる言葉が必要になる。それでSIMを入れ、グーグル翻訳が使えるようにしたのだ。

 ところが、そのような場面ではまったく役に立たなかった。そもそもジャールカンドの村ではほとんどが電波の範囲外なのだ。都市にいないと携帯は使えないのだった。たまに電波が入って、スマホを差し出しても、村人はその意味がわからず返事をしてくれない。つまり、スマホが言葉を翻訳してくれる機械であるということを、こちらが理解させられなかった。ある程度こういうことに慣れていないと、この簡単な手順もなかなかわかってもらえない。バススタンドなどでスマホになれた人にそれをやると、素直にやってもらえたので、スマホになれているかどうかがポイントだ。

 たまにそれが成功しても簡単な言葉でない限り翻訳できない。翻訳しやすいように短いセンテンスで話せば機械も追いつくだろうが、普通の調子で長々と話されると無理なのだ。

 そういうわけで田舎の村ではほとんど役に立たなかったが、都市のバススタンドやホテル、レストランではある程度使える。しかし、もともとこのようなところはそんなものがなくてもたいした問題はないので、結局なくてもいいということになる。むしろ、このようなものに頼ると、今までなくてもなんとかなったのに、思わず頼ろうとする「退化」を引き起こすことが判明した。不思議なもんですね。

 田舎にスマホを持っていっていちばんよかった点は、前にも書いた通り、訪れた場所の位置確定だ。これについてはカメラ(オリンパスTG-5)にある追跡ログ機能を期待していたが、やってみた結果、操作が異常に面倒くさく、しかも時間がかかるので、あまり実用的とは思えない。

 もっとも手軽なのはグーグルマップだ。訪れた場所でグーグルマップを開き、現在地をマークするだけで位置が確定する。タイムラインを開けば、その日に移動した軌跡が記録されるのでこれで十分だった。

 多くの人が感じていらっしゃることだろうが、今やグーグルマップさえあれば、旅はなんとかなるのではないかと思う。

 今回行ったジャールカンドは、1250ページを超えるロンリープラネットのガイドブックさえ、州全体でわずか4ページしか情報がなく、掲載されている都市は州都のラーンチーのみ。それも極めておざなりな情報しかないような場所だ。それでもグーグルマップさえあればなんとかなるというのが今回の旅の実感だ。

 ホテルやレストランはマップ上で検索すれば、かなり細かく安い宿から高級ホテルが価格まで出てくる。地図上でホテルがたくさんありそうな場所に行けば、他にもいろいろ見つかるのでホテル探しは容易にできる。

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グーグルマップで出てくるラーンチーの一画。かなり多くのホテルが出てくる。

 おもしろかったのは店探しだ。僕は今回ジャールカンドの民俗画を見に行ったが、できれば紙に描かれた絵や、ジャールカンドの布を買いたかった。村には壁画はあっても、紙に描いた絵は売っていないのだ。紙の絵があることは知っていたのだが、それはどこに売っているのか。ジャールカンド独特の布はあるのか。

 というわけで、ラーンチーでグーグルマップに「Jahrkand tribe art textile」といった単語で検索すると、いろいろと地図上に出てくる。それを見て、ここと思ったところを数カ所訪ねてみることにしたのだが、行ってみると店ではなく、州政府の事務所だったりした。そこで店の場所を教えてもらってたどり着いたこともあった。行ってみないと、どういうところかまったくわからないというのも、なかなかおもしろいものだ。

 ラーンチーにはたいした見どころはないが、それでも検索すると、ロンリープラネットよりよほど多くの「見どころ情報」が出てくるし、それはたぶん他の都市でも同じだろう。旅行の一般情報では、もはや紙のガイドブックはネットには太刀打ちできない。紙のガイドブックなら、よほど特別な情報やネットにはない独自性がないと買う人はいなくなるかもしれない。