『ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる』

f:id:kuramae_jinichi:20190227123434j:plain


 ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる』というドキュメント映画を観てきた。

 ユーリー・ノルシュテインはファンの方には言わずと知れたロシアアニメーション界の巨匠だが、そのノルシュテインが取り組んでいるのがゴーゴリの名作『外套』のアニメ化だ。ところが、残念なことにその制作は現在中断していて、なんと中断期間は30年に及ぶ。ノルシュテインの『外套』制作と中断はファンの間ではあまねく知られており、誰もがいったいいつできるのか、完成する前に死んじゃうんじゃないかと皆が心配している。

 それで、本作の才谷遼監督がロシアへ乗り込み、いったいどうなっているのか! とユーリー・ノルシュテインに迫ったのがこのドキュメンタリー映画なのだ。

 だいたい巨匠ユーリー・ノルシュテインに面と向かって「いったい映画制作はどうなっているんですか」などと真正面から詰問できる人間はいない。関係者でさえ『外套』について話すのは「タブー」となっているらしい。それを「(どのような事情があるにせよ)30年も中断するなんて、どういうことですか!」と本人にいえるのは才谷氏ぐらいのものかもしれない。さすがに本人も素面でいうのは無理だったらしく、コニャックをボトル半分あけ、酔っ払った勢いで迫ったと試写会のあとでいっていた。その様子が映画のシーンに出てくるが、説明されなくても酔っ払っていることは見て取れる。

 なぜ30年も映画制作が中断されているのかは、様々な要因がある。ソ連の崩壊、現体制、現社会への憤り、あるいはスタッフの死、予算の確保、生活の安定などなど一言で説明できることではないようだ。驚いたのは、ディズニーから予算と設備を提供するというオファーがあったということだ。だが、結局ディズニーはなにもしなかったらしい。いや、できなかったというべきか。完成がいつになるかわからない映画にディズニーは契約など結びようもないのだろうし、ノルシュテインも、ディズニーのために映画を制作することなどできるわけがない。

 ノルシュテイン邸に1週間通い続けて、才谷監督は現在のノルシュテインの心境や状況を聞き出していく。ノルシュテインの答えもわかるようなわからないような問答が続くのだが、それが嘘偽りのない「状況」なのだ。

 78歳になったノルシュテインに残された時間は多くない。才谷監督が「この調子だと、できるまであと30年かかりますね」というと、ノルシュテインは真面目な顔をして、「やろうと思えば私は早いんだ。いつまでできるかなんてことはまったく考えていない」という。とりあえずノルシュテインが現在も元気であることを祝福し、なるべく早いうちに「やる気」を起こしてくれることを祈るばかりである。

(3月下旬、渋谷イメージフォーラムでロードショー)

f:id:kuramae_jinichi:20190227123449j:plain