ポルトガルの旅(2)フォス・コア

 モンサントからカステロ・ブランコ、グアルダを経由して、一気にヴィラ・ノヴァ・デ・フォス・コアという田舎町にやってきた。この長い名前の小さな町は、ポルトガル世界遺産の一つコア渓谷をまわるための基地になる町だ。人口はわずか3000人。私が生まれた牧園町よりも少ない。

 コア渓谷が世界遺産なのは、ここに1〜4万年前頃に描かれた線刻画が残っているからである。当初、ここにはダムが建設される予定だった。工事を始めてみると、線刻画の岩がごろごろと発見され大騒ぎになったらしい。それでダム建設の反対運動が起きて、ダム建設は断念され、この渓谷は世界遺産に登録されたのだそうだ。

 古い線刻画は4万年前にまで遡るとガイドは言ったが、正確には20世紀に彫られたものもあるという。20世紀ってついこの前まで20世紀だったわけで、いったい誰が彫ったのかと聞くと、羊飼いなどであるという。そうなると、何を遺跡として認定するのか難しい気もする。数万年前の線刻画に混じって、100年前の羊飼いが描いたものもOKなら、10年前に誰かが描いたものはなぜ認定されないのか微妙ではないか(もちろん認めないと思いますが)。

 そういえば、オーストラリアのアボリジニの岩絵も、時代が非常に幅広い。いつ描かれたかわからないほど古いものもあれば、岩絵の中に帆船なんかも表れてきて、そういった岩絵を研究すると、実はアボリジニたちが東南アジアとつながる文化を持っていたことが判明したらしい。

 それはともかく、ダム工事から救われたコア渓谷の線刻画は、ガイドの説明によれば、洞窟のような内部に描かれたものではなく、表に現れた岩絵としては世界最大の規模を持つらしい。しかし、一般に公開されているのは、そのほんの一部のみである。というか3カ所だけで、見られる線刻画は一カ所につき3〜5カ所のみ。世界最大にしてはちょっとけち臭いんじゃないの?

 本当はもっとたくさんあるのかもしれないが、例えばタッシリナジェールの岩絵などはテントと食料を持参して数泊にわたるトレッキングをしながら岩絵を見てまわるほどの規模がある。絵の種類もこことは比べものにならないので、世界最大というのはいまひとつ疑義が残るというのが私の正直な感想である。

 まあ、しかし、世界最大であってもなくてもどうでもいい。コア渓谷には今アーモンドの花が咲き始めている。みなさんはアーモンドの花というのをご存知でしょうか? 私はつい数時間前まで知らなかったのだが、アーモンドの花はポルトガルに来て数日後には見ていた。それを私は桜と勘違いしていたのだ。ポルトガルにもこんなに桜が咲くのか、日本より先に満開の桜を見てしまったなあ、などと思っていたのだ。

 ところが、今日ガイドの説明を聞くと、それは桜ではなくアーモンドだという。いや、驚きました。ほとんど桜ですよ、あれは。おそらく日本人ならあれを見て桜だと思わない人はいないんじゃないかなあ。こういう花です。ね? まるで桜でしょ?

 そのアーモンドの木から採れた実の殻を割って、中のアーモンドをお土産屋が食べさせてくれた。普通のアーモンドだった。

 というわけで、ただいまポルトガル北部を旅しているところだが、実は一昨日から腰痛が発生し、ちょっと困っている。しょうがないので明日は一日休養日に。