グレゴリ青山さんの田舎暮らし

 グレゴリの新刊『田舎暮らしはじめました』(メディアファクトリー、998円)が発売された。以前グレゴリは東京に住んでいたが、ある日いきなり和歌山の田舎に引っ越してしまった。夫が田舎暮らしに憧れて、日本各地の田舎に格安で住める家はないかと問い合わせたら、和歌山からいい返事が届いたから、東京を引き払うことにしたと聞いていた。その田舎暮らしの一部始終が描かれている。

 私もその和歌山の家に遊びに行ったことがある。私は田舎で生まれ育っているから、その田舎ぶりに特に驚いたりはしないが、家賃の安いことと、家の大きさはうらやましいと思った。もちろん立派な家ではないが、それでもちょっと手を入れれば十分に住める程度の家屋で、広さだけでいえば、こんな広い家には一生住めないだろうというぐらい巨大な家だった(広すぎて掃除が大変だが)。

 田舎暮らしに憧れる人には、いくつかのパターンがあるように思われるが、その一つがエコロジー的半自給自足生活を指向するタイプだ。グレゴリ夫婦もこのパターンで有機農法で野菜を作り、花を育てたりする。例えば、友人の影響を受けて糞尿を畑の肥料にまく。すると近所の人がその臭いに驚いて、「今どきそんなものを肥料にしたりはしない」といわれてしまう。現実の田舎では、そういうエコ農業は行われていなかったというギャップがおかしい。

 グレゴリはフリーの漫画家なので田舎暮らしがしやすかったのではないかと思う。もしこれが住み着いた田舎で職を得て、しかも子どもがいたりしたら、地域社会にどっぷりとつからなくてはならない。田舎で就職しないですめば自由度はかなり高くなるだろう。田舎暮らしはいい面もあれば悪い面もある。人付き合いもその両面があるが、そのこともこの本には率直に描かれている(そこに住んだままだったら描けなかっただろうが)。

 それにしても、私も彼女の家に行って話を聞くまで知らなかったのだが、グレゴリ夫妻は基本的に都会育ちで、田舎暮らしに憧れて有機農法をやろうといっているのに、虫が死ぬほどキライというのには驚いた。私は田舎育ちだから虫など何ともないが、私の妻も虫が苦手だ。静岡市も虫がいないような都会なのだろうか。ゴキブリなんかは見るのもイヤだというから、私が殺して紙にくるんで、そのうえビニール袋に入れてゴミ箱に捨てるまで決して近づかない。ビニール袋に入れて厳重に封をする必要はないというのに、ゴキブリは死んだふりをして生き返るから絶対ダメだという。こうなるとほとんど妄想に近い。

 話は横道にそれたが、虫嫌いの夫婦が田舎でどうやって生活していくのか。都会育ちの人が憧れの田舎暮らしでどういう困難にぶち当たるのか、それをどうやって乗り越えていくのかが、切実に、しかしもちろんユーモラスに描かれている。私も田舎暮らし願望が強いので、彼らの話は参考になったし、この本も本当におもしろかったのだが、あっという間に読み終わっちゃうんだよなあ。もうちょっと長く描いて欲しかったねえ。最近のグレゴリは『ブンブン堂のグレちゃん〜大阪古本屋バイト日記』(イースト・プレス)といい傑作が続いている。この本も大いに期待されたし。