新聞広告の規定

 今度、朝日新聞に広告を出すことにした。ものすごくひさしぶりのことで(10数年前にやったことがある)、これもまあ新聞広告が以前より安くなったから可能になったのだ。

 皆さんは新聞の書籍広告をどの程度意識なさるだろうか。新聞の書籍広告で最も花形なのが、通称「三八(さんやつ)」と呼ばれる書籍広告で、一面の下に並んでいるのがそれだ。ここは書籍と雑誌の広告しか掲載されず、面積あたりの料金が最も高い。三八とは「3段8分の1」のスペースという意味だ。例えば朝日新聞の場合、3段の長さが101ミリ、8分の1は47ミリになる。しかし、ここは高くて手が出ない。うちが出すのは、日曜日の読書欄の下に12個並んでいる広告で、大きさは三八より大きいが料金は安くなる。

 二面以降には全五、半五と呼ばれる大きな広告が掲載されている。永江朗の『不良のための読書術』(ちくま文庫)によれば、「三八には硬くて少部数の本や専門的な雑誌の広告が多く、全五、半五の広告は週刊誌や月刊誌、大手出版社の新刊やベストセラーの広告が載る傾向がある」というが、確かにそうかもしれない。三八にピンク雑誌やギャンブル雑誌の広告など見たことがないもんね。

 新聞広告には独特のルールがある。一面の三八、読書欄の書籍広告では、使用できる書体が朝日新聞が定めたものしか使えない。ゴシック、太ゴシック、明朝、太明朝の4種類である。会社のロゴやマークも使用できないし、もちろん写真も使えない。お手元に新聞があるならちょっと見て下さい。そういわれれば文字の種類が少ないでしょう? 昔、手で組んでいた活字のスタイルが現在でも踏襲されているのだ。

 したがって、こういう広告を作るには、いつもやっているように、コンピューターでレイアウトを組んでデータを送るなんてことはしない。慣れているので僕は一応コンピューターを使うけれど、それで作ったやつをプリントアウトし、ファックスで送る。広告を製作する側は、それを見ながらあらためて所定の書体で組み直すのだ。だから文字数がオーバーしなければ、紙に手で書いて送っても問題はない。いまどき不思議な世界なのである。

 新聞によっては規定が違う。写真もロゴも、あるいはカラーもOKという新聞がある。例えばスポーツ新聞などはそうだと思うが、朝日新聞のような地味なものと、何でもありの新聞とを較べると、かなり紙面の雰囲気が異なる。スポーツ新聞の場合は見出しや写真もド派手なので雰囲気が異なるのは当然だが、普通の新聞で較べると雰囲気の違いが一目瞭然だ。書体が限定されているほうが、記事面との違和感が少なく、ぐっと落ち着きのある紙面になる。新聞のデザインがいかに固有のスタイルを守り続けているかがわかる。だから、何年かに一度行われるレイアウトの変更(文字が大きくなることが多いが)はかなり神経を使うことだろう。

 うちの広告は、予定通りいけば9月27日(日)の朝刊に出る。朝日新聞をご購読の方はお気づきになったら見てみて下さい。それから「週刊文春」のインタビュー「著者は語る」は、10月1日発売(10月8日号)に掲載されるそうですので、これもよかったらご覧下さい。