インド・ダイヤモンドの運び人

 誰が名付けたのか知らないが、このたびの連休は「シルバーウィーク」だという。まったくセンスのないことおびただしい。こんな名前をわざわざ付けるぐらいなら「9月連休」で十分用が足りる(そもそも連休に名前を付ける必要があるのか)。

 高速道路が例によって大混雑し、中央高速は小仏トンネルで55キロの渋滞だったとニュースでいっていたが、小仏トンネルから55キロといえば、勝沼インターあたりまでつながっていたってことである。うちの田舎でいうと、霧島から鹿児島市まで渋滞が続いたってことだ。考えるだに恐ろしいことである。

 私の連休はひたすら我が家のメンテナンス作業。ベランダの腐った木材をとりかえるのに2日を要し、3日目から身体の節々が痛くなった。ノコで角材を切って、防腐剤を塗り、古い木材を取り除いてとりかえるだけの作業で、なんで尻の筋肉まで痛くなるのか理解に苦しむ。いったい私の身体はどうなっておるのか。次の日からは満足に動けなくなって、窓ふきのみにとどまったのが残念な連休だった。

 連休最後の夜に、寝る前にふとまわしたNHK BS放送で、インドの番組をやっていて、つい見入ってしまった。「発掘アジアドキュメンタリー インド・ダイヤモンドの運び人」という番組だ。ご覧になった方もいらっしゃることでしょう。これがなかなかおもしろかった。

 インドが世界最大のダイヤモンド加工国であることはよく知られている。ダイヤ加工業者トップ5は、インド60万人、2位、中国2万5000人、3位、ベルギー1000人、4位南ア1000人、5位、イスラエル900人となっているからダントツ1位なのだ。世界で流通するダイヤの18個中17個がインドで研磨されている計算になるそうだ。インドでも主にグジャラートの田舎町のぱっとしない建物の中で、何百万円もするダイヤの原石が、インドの職人の手によってカットされているのだ。

 インドがダイヤの原石を産出するわけではないので、南アやボツワナで採掘された原石が、アントワープなどの取引センターを経てインドに持ち込まれてくる。そこから先が、「ダイヤモンドの運び人」の出番となる。原石を研磨したりカットしたりする加工業者に、その原石を運び込む流通手段に、インド独特のやり方があるなどとは考えたこともなかった。保険をかけてDHLなどの運搬業者に依頼するのが普通なのかと思っていたが、インドではダイヤの運び人として「アンガディア」と呼ばれる専門家が存在するのだそうだ。

 そのアンガディアのなり手は、グジャラートの2つの村で生まれ育った男の中から、特に信用できて適性があると見込まれた者だけを選抜し雇い入れるという。インドだから世襲されることもあり、適性が見込まれれば親族が教育を施す。そういったシステムが今でも引き継がれているというのが、いかにもインドらしい。無造作に紙に包まれた何百万円もする原石を運ぶのに、アンガディアたちは目立たないように、ごく普通のカジュアルな姿で、列車やバスに乗って運搬する。まるでスパイのようだ。運搬中は他人と話をしてはいけないらしい。

 一見すると、この運搬方法は前近代的なシステムのようにも思えるが、しかし、世界のダイヤモンドの90%が彼らによって運ばれているそうだ。加工業者が最も多いスーラトには空港がないから、アンガディアたちがスーラトからムンバイへダイヤを運ぶ。もしアンガディアがストライキでも起こしたら、スーラトの9000億円分のダイヤ貿易はすべてストップしてしまうといわれている。つまり世界のダイヤ流通が滞ってしまうのだ。まったくもってあなどれない人々なのである。

 ところで、石井光太さんとの対談がいよいよ3日後に迫ってきました(9月27日)。あまりたくさんの人は入場できないようですので、ご希望の方はなるべく早く整理券をご入手下さい。よろしくお願いします。