最近のこと

 何故かわからないのだが、本誌最新号(159号)がよく売れている。いつもよく売っていただいている書店からも追加注文が来るし、これまで取引のあまりない書店からも問い合わせが来る。アジア専門の書店からもルーマニア特集なのに追加がきた。アマゾンでも、一カ月で最も高い部数を記録した。いったいなんでこの号が売れるのだろうか。

 最初は、本誌創刊20周年記念号で、これまでの執筆者の方々にお書きいただいたおかげかと思った。もちろんそれもあると思うのだが、それにしてはこれまで聞いたことのない書店から注文が来るのはちょっと変だ。このまえある書店の方と話をしたところ、今、ルーマニアや東欧が女性のあいだで密かなブームになっているのではないかというのだ。

 そういえば、このまえ『ロシアの正しい楽しみ方』の在庫がなくなったので、増刷したところだが、そこでもロシア・東欧系の雑貨ものが女の子のあいだで流行っているという話を聞いた。なんでも若い女の子には、あのマトリョーシカ人形が「かわいい」んだそうな。うーん、あんなべたなみやげ物がかわいい? 理解に苦しむ。私にはまったく確信は持てないのだが、世の中がそういうふうになっているとしたら喜ばしいことで、雑貨ものはぜんぜん載ってないけど、ルーマニア号をどしどしお買い求めいただければこの上ない幸いである。

 というわけ(かどうかは知らないが)、3月下旬にルーマニアの田舎旅行についてお話をさせてもらうことになった。たぶん3月20日頃になると思うが、詳細が決定したら告知板に出しますので、よかったらどうぞお越しください。


ⓒ Yokotani Sen

 さて、当欄や、田中真知さんのブログでもたびたびご紹介しているが、横谷宣さんと飯沢耕太郎さんの対談に多くの方がいらっしゃってくださって(これは新人写真家としては異例のことだそうだ)、本当にありがとうございました。私は当事者ではありませんが、何故かお礼を申し述べたくなりました。これもまた新人写真家初の個展としては異例のことだが、かなりの数の作品が売れたという。

 実は私も買いましたが、横谷さんの話が実におもしろかったことと(その内容については真知さんのブログに詳細な報告があります)、あとで横谷さんにお聞きしたことでものすごく驚いたことがある。横谷さんは、10年かけて世界各地を旅し、想像を絶する撮影を行ってきたのだが、おそらくそうやって撮影されたコマ数は何千枚もあるのだろうと想像される。今回の個展では、そのうち45枚ほどがプリントされ展示されているのだが、私が横谷さんに、「他のネガをプリントして個展を開く予定はありませんか?」と聞くと、横谷さんは首を振って、これまで撮影した分でプリントまでこぎつけるのはこれだけだというのである。もう一度見直せば、あと数枚はあるかもしれないけれど、それでもせいぜい50枚あるかないかだというのである。

 私はその言葉を聞いてあぜんとなった。10年かけて数千枚撮影し(いや数万枚かもしれない)、プリントできるのがたった50枚! うーむ、それはいくらなんでもあんまりじゃないの? しかし、横谷さんはそれがせいいっぱいなのだという。ということは、彼の作品はこれしかないのだ! しかも1枚の作品をプリントするのに半年以上の時間を要するのかと思うと、これは今買っておかねばと思ったのだった。

 私は写真にはまったくの素人で、もちろんこれまで写真なんか買ったことはないのだが、彼の暗い部屋で初めて作品を見せていただいて衝撃を受けてから、こうやって初めての個展に足を運び、話を聞き、会話を交わすと、もう彼の作品の虜になっていることを深く自覚する。横谷宣さんの成功を心からお祈りしたい。

補足:2月14日にもう一度横谷さんのトークが聴けるらしいです。詳しくは下記のリンクで。
http://www.gallery-bauhaus.com/katarukai-090214_yokotani.html