ああ、原稿料

 なかなか続きが読めない田中真知さんのブログの中休みに、私も原稿料ネタを一つ。

 安い原稿料という点では、本誌も他に引けを取らないが(本当に申し訳ありありません)、作家の方々の話を聞くと、近頃どこも原稿料が安いとお嘆きである。ヘタウマイラストレーターの渡辺和博が『金魂巻』(1984年)で、○ビ(貧乏)イラストレーターは学研で1枚500円のイラストを描いていると書いたが、実は私もイラストレーターになりたてのころ、学研から仕事をいただいて、切手大ぐらいのイラストを1枚500〜1000円ぐらいで描かせてもらっていた。これ以上、安い仕事はないだろう。

 もっとも、私は学研のこの仕事が不当だと言っているのではなく、逆に、新人の下手くそなイラストレーターに仕事を与えてくれたこの会社には深く感謝している。下手な新人が仕事をもらえるのだ。安いのは当然である。学年雑誌に毎月20〜30枚のカットを描かせてもらっていたので、1〜2万円の仕事にはなったのだ。

 バブルの時代になると、私のような無名のイラストレーターにもとんでもない仕事がやってきた。マガジンハウスの「ポパイ」にイラストを描いてくれと頼まれて、カラーの小さなイラストを3枚ほど描いた。原稿料がいくらなのか聞かずに仕事をしたが、あとで振り込まれた原稿料をみてびっくり。なんと12万円! 残念だったのは、一回しか依頼がなかったことだ。

 アフリカ旅行から帰ってきた頃(1992年)、ある有名歌手のコンサート・パンフレットに掲載するエッセイを頼まれたことがある。400字詰め原稿用紙で5枚。
「それで、先生、原稿料はいくらほどになりますでしょうか」
 依頼してきた人が私に聞く。発注者から原稿料はいくらですかなどと聞かれることはまずないので、非常に戸惑う。なにしろ有名歌手のパンフレットだから、相当高いことを言っても大丈夫だろう。よーし、思い切って1枚1万円だ!
「5枚ですから、5万円でいかがでしょう」
「あ、そうですか、はい、それではよろしくお願いします」(がちゃん)
 しまった〜!
 そそくさと切れる電話の音を聞いた途端に、その原稿料がかなり安かったことを悟った。
 フリー編集者をやっている友人にその話をすると、
「ばかだねえ、○○○○だろう? あんな売れてる歌手のパンフレットだぜ。5万円はないよ。最低でも20万円だよな」
「え? 5枚だよ。5枚で20万円も払うかね」
「20万円は最低だよ」
 世界が違いすぎる。とてもそんな交渉はできそうもないとその時思ったものだった。

 後日、その友人から、企業PR誌のエッセイ原稿を頼まれた。
「クラマエさ、安くて悪いんだけどエッセイを5枚で書いてくれないかな」
「いいよ。いくらなの?」
「10万でなんとかしてくれる?」
「じゅ、じゅうまん? 5枚で10万なら何でも書く、書く、書く〜」
 私はすばらしい友人を持っている。このありがたい友人は3回もこの仕事をくれた。

 先日、友人のイラストレーターが私にこういう話をした。そのイラストレーターの友人のイラストレーターが、数年前に、世界的なチェーン展開をしているコーヒーショップから、クリスマス・セール用のイラストを依頼されたという。描いたイラストは5枚。そのイラストは世界中で使用されることになっている。
「さて、このイラスト料はいくらだったと思う?」

 皆さんも推測してみて下さい。いくらだったと思います? ちなみに会社の相田さんにこの質問をすると、彼女は「それって高かったってことですよね。うーん、いくらだろう」と考え、「5万円!」といった。この人もかなり異なる世界にお住まいのようだ。
 ちなみに私は500万円と答え、そのイラストレーターに、「日本で使われることになるイラストだって、もっともらえるよ」とバカにされた。
 じゃあ、いったいいくらなんだよ。
 答えは、なんと300000000円! 0の数を数えますか。8個もあります。そうです。3億円!
 サマージャンボ宝くじの世界である。

 田中真知さんに聞いたのだが、近頃は、ネットに掲載する原稿を募集していて、それがひどい安値だという。
「一本100円だって書いてあるんだよ」
「何それ、100円ショップじゃあるまいし、一本って何枚なの?」
「さあ、100円じゃ何枚とかいうレベルじゃないよね」
「そりゃそうだ」
 調べてみると、こういうのがありました。

iPadに関する情報(1記事200円)
Twitterに関する情報(1記事100円)
・家電製品(1記事100円)
・PC、MAC関連製品(1記事100円)
・アニメ、マンガ全般(1記事100円)
・ゲーム(1記事100円)
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 1記事っていったい何なの? これじゃ、まともな原稿を書けという要求はできないね。
 こういう原稿がネットにあふれ出したら読む方はたまらない。やれやれである。

 それでは、田中真知さんの続きを待つことにしましょう。