出版社のリスク

 次号の制作に追われて、なかなか当欄を更新するひまがない。すいません。

 仕事をしながらラジオをつけっぱなしで聞いていたら、さっき作家の石田衣良がこんなことをいっていた。
「映画は(金銭的な)リスクが大きいけど、小説は全然ありませんから」

 おいおい。制作費がかかった映画の場合は、興行が失敗すると大変なことになるのは理解できる。それに較べて、小説なんて売れなくてもたいしたことない、といってるのか? こんなセリフを聞いたら、石田さんの小説を出版なさってる出版社の方はどうお感じになるでしょうか。リスクは出版社が負っているということを、この小説家はすっかり忘れているらしい。

 ま、当たり前のことだから、声を張り上げる気はないんだが、作家だの小説家だのというのは、本を作るのに自分で金銭的なリスクを全く負っていない。売れても売れなくても、本は刷った部数の何%かをもらえることになっている。これを印税というのは皆さんもご存知でしょう(最近はこれが売れた数だけの印税になっている出版社も多くなっている)。

 だからといって、それでモノカキが儲かるとは必ずしもいえない。特にノンフィクション関係は、取材や資料に数百万単位の金がかかるが、何万部というベストセラーをかっ飛ばさないかぎり、その金を取り戻せないのが普通で、いまどきノンフィクションで何万部のベストセラーなんてほとんどない。

 だからこそ出版社は、そういったモノカキに敬意を表して、そして、これが重要なんだが、それがいい原稿であり、おもしろい文章であることに感動し、リスクをしょってでも一生懸命本を出しているのだ。できればその本をたくさん売って(読んでもらって)お互いに儲けましょうと。だから、本を作る──作家が原稿を書き、出版社が本にする、という行為は、どちらにもリスクがあるのである。

 もっとも、石田さんの場合、自分の小説は出せば売れるから、出版社は儲かるばかりで、まったくリスクなど負っていない、という自負があるんでしょうね。だから出版社もこんなことをいわれても文句も苦情もいえないと。石田さんのように出せば売れるという人でないと、なかなかこんなセリフは吐けないものですよ。