アマゾンの電子書籍問題

 どうもブログの更新が滞ってしまってすいません。毎日、自宅と事務所の往復ばかりで、私の生活にはほとんど変化がないが、その間にバンコクは浸水するし、ギリシャ財政破綻しそうになるし、ヤクルトは最後で失速するしで、今年は本当に大変な1年になってしまった。マヤの予言では2012年に世界が滅亡するそうだが、映画『2012』は全編CGでその滅亡の様子を表現してジェットコースターに乗ったような迫力だった。

 ところで、ネットで読んで知ったのだが、最近出版業界で話題になっているらしいのが、アマゾンの電子書籍化問題。この記事が火付けになったらしい。

「こんなの論外だ!」アマゾンの契約書に激怒する出版社員 国内130社に電子書籍化を迫る
http://news.livedoor.com/article/detail/5977004/
 アマゾンは年内にも日本で電子書籍事業に参入する予定。国内の出版社130社に対して共通の書面で契約を迫っているそうだ。しかし、その契約書は「アマゾンは出版社の同意なく全書籍を電子化できる」「売上の55%はアマゾンに渡る」「価格は書籍版より高くしてはならない」など、出版社側に不利な内容だった。アマゾンは「10月31日までに返答せよ」と要求している。
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 これがどこまで事実かどうかはわからないが、出版社の同意もなくぜんぶ電子化できるなんて! とか、売上の55%もとるなんて言語道断! と怒りまくっている(ように記事に書かれている)。出版社に断りなくアマゾンが電子化できるかといえば、著作権は著者にあるのだし、著者に断らないと電子化は無理なんじゃないかと思う。

 それではアマゾンの取り分55%問題はどうだろうか。一般的な話をすると、本の価格は、書店・取次30%、著者10%、印刷・紙代20〜30%、出版社30〜40%という割合で構成されている。したがって、著者と出版社の取り分は40〜50%ということになり、アマゾンの55%という主張もあながち無茶な数字ではない。電子化されれば、出版社は在庫を持つ必要がない。したがって倉庫代も、配送する費用もなくなるわけで、従来、出版社の取り分の中から支払われていたこの費用が新しい収益になる。そんなに怒りまくるってほどの内容じゃないと思いますけどね。

 記事によれば、アマゾンが、電子書籍は紙の本よりも安くしろと主張しているらしい(私はそれは妥当だと思うが)。そうしないとアマゾンが強制的に勝手に紙の本をスキャンして紙の書籍と同じ価格で販売するというようなことも書かれている。

 だが、そもそも紙の本をスキャンしたところで、電子書籍にはならない。活字だけの本ならOKだろうが、写真が入っている本は、印刷されたものをスキャンしてもドットが出て売り物にはならないのだ。だから電子化するにはオリジナルの電子データが必要になる(PDFなどで渡すことが多い)。そういうことを知らない人がこの業界にいるとは思えないので、この記事そのものの信憑性も低いと言わざるをえない。

 だが、今後の出版界には一石を投じる事件ではあると思う。世の中に出まわる本のすべてが電子化に向いているとも思わないし、またならないと思うが、前から書いているように、電子化したほうがいいものもたくさんある。旅行ガイドブックなんかは電子書籍のほうが向いているのだ。

 紙の本を制作販売するということは、当然のことながら、印刷所で印刷し、取次に配本してもらい、書店で販売してもらうということだ。つまり、電子化とはこの3者が不要になるということでもある。多くの本が電子化されると、データさえあればいいという本は電子書籍が有利になり、書店は不要になってしまう。それだと書店が街から消えてしまうので、なにか共存共栄の道はないものだろうかと思うが、すごく売れているトートバッグ付きの雑誌なんてのは電子化できないですねえ。

 しかし、本当に電子書籍が本の主流になるのかどうか、まだわからない。私は電子化されたほうがいいと思うジャンルもあると書いたが、小説なんかは逆に電子化する必要はないと思う。わざわざiPadなんかをひっぱりださなくたって、ベッドの脇に文庫本を転がしておくほうが便利だからだ。うまい具合に棲み分けが出来ればと願う。