ロンリープラネット日本語版インドが発売

 すでに旅社でもこのことは触れられているが、僕もようやくこの本『インド (ロンリープラネットの自由旅行ガイド)』を入手した。届いた本を見て、予想はしていたけど、その厚さにうなる。1176ページ、重さ1145グラム。なんと1kgを超えるのだ! 迫力満点ですね。

 こんなに情報が必要かどうかは旅行する人によってまちまちだろうが、それにしても圧倒的な情報量であることは間違いなく、おそらく日本で出版されるインドのガイドブックで、これを上回る情報量のものはまず出ないのではないかと思う。日本語版版元のメディアファクトリーに拍手だ。個人的には、かなりうれしい。かつて英語のオリジナル版を持ってインドをあちこち旅行し、非常に役に立った。その最新版の日本語版だから、ぱらぱらめくっているだけでインドに行きたくなってくる。

 気が付いたことをいくつか書くと、まずインドの新しい州がきちんと掲載されているのはさすがだと思う。情報量は少ないが、ウッタラーンチャル州の独立の経緯や、ジャールカンド州、チャッティースガル州が一応押さえてあるのはえらい(あとの2州は観光的にはほとんど見どころのない州だが)。

 翻訳だけで、版元が編集を加えていない(加えてはいけない)せいだろうが、日本人用のガイドブックなのに、日本人がよく泊まる日本人宿の情報がない。実は10年ぐらい前の英語オリジナル版には、バナーラスのクミコハウスは、日本人がよく泊まる宿として紹介されていたのだが、以降の版でカットされたのだろう。この日本語版にも掲載されていない。それはそれでいいと思う。在インド日本大使館の連絡先はちゃんと掲載されているのはグッドだ。

 ページの合間に埋もれるようにあるコラムがおもしろい。もちろん英語版でもあったのだが(新しく収録されたものもあれば、なくなったコラムもあるようだ)、歴史、宗教、人物、芸術などさまざまなジャンルにわたるちょっとしたコラムがちりばめられている。慈善事業に参加を呼びかけるような記事が多いのもこの本の特色だが、それよりも、こういったコラムを果たして読むチャンスがあるかどうか。なにしろ1000ページを超える本の中に隠れるように掲載されているので、自分が旅をしない地域のコラムには最後まで出合わない可能性もある。コラムだけでも拾い読みしますか。

 それにしても、ぱらぱらとめくっただけだと、かなり無愛想なガイドである。日本のガイドブックと違ってカラーページは少ないし、白黒ページにはいっさい写真を使っていない(イラストも僕が見た限り1枚しかない)。活字だけで埋め尽くされたページがかなり多いのだ。なんというか辞書をめくっている感じである。もちろんオリジナル版がそうなのだから当然のことだが。

 で、これが日本の読者に受け入れられるのかどうかがいつも気になっている。使ってみれば、こういうガイドブックの方が無駄がなく、かえって道具として使いやすいのだが、見た目の印象は別である。こんなガイドブックは日本にはなかったから絶対に受けるといった評論家もいたが、日本になかったのは受けないからだという説も成立する。出してみないとわからない。少なくとも、旅行人から出した「旅行人ノート」は、徐々に写真を多くし、なるべくカラーページも増やすように努めた。そのほうが読者に受け入れられるという判断をしたからだ。だから、逆にいうと、ロンリープラネット日本語版には、このままのレイアウトで受け入れられられればいいのにと思う。

 このガイドブックをめくっていると、数行しか紹介されていない、観光的にはほとんど見どころもないような無名の町や村が登場する。こんな記事を見ると、どんなところだろう、行ってみたいなと思う。ガイドブックに掲載されたところにしか行かない旅行といって、偉そうに批判する人もいるけれど、実際にはこういうところが数行紹介されたところで、誰も行く人はいないのだ。だから日本のガイドブックでは普通カットされる。このガイドブックの最大の長所は、そういうところもほんの少しだけ紹介されていることだろう。本当に行ってみたくなってくるなあ。