写真集『ディア・インディア』(3)旅の本のデザイン

 松田さんのオフィスに行くと、これまで松田さんが制作なさった本をお見せいただき、ひとつひとつの作り方を説明いただいた。
 その中で箱に入った小さな本があった。それは僕もとても気に入っている本で、外側の箱にコンクリートの表面が印刷され、中は海の水平線ばかりの写真が掲載された写真集だった。
 実際にこういう本をつくると、どこにスリップ(書店取引用の札)を入れるのかが疑問で、僕はここに来る前に近所の書店で尋ねてみたのだが、外側にビニールにくるんで貼り付けるしかないという。それには余分なコストがかかる。松田さんにそれを尋ねると、実際にそうしたという。
「それよりも、読者が中の写真集を実際に見られないのがよくなかったね」
 僕はひそかに箱入りもおもしろいと思っていたが、やはりダメなようだ。
 造本は同じでも、カバーの色が異なる本があった。その本はけっこう売れたので、増刷のたびに地の色を変えてみたのだそうだ。なるほど、インクの色を変えるだけでおもしろいバリエーションになるんだなあ。
 さて、うちの本はどうしたものか。僕が持参したラフなアイデアを見て、松田さんはそれに向く紙の提案などを具体的にしてくださった。話をしていると、次々におもしろい本が作れそうな気分になる。僕はこれまでグラフィックデザイナーとデザインの話をしたことはほとんどなく、デザインの話は本当に楽しかった。
 造本の仕方にもよるが、2000円で販売すると通常の本よりも利幅は少ないらしい。赤字にならないようにどう工夫するかは印刷所の知識と経験もかなりの比重を占めるそうで、業界では有名だという印刷会社の方を紹介していただいた。
 それから、とりあえずコストのことは無視して、あれこれアイデアをひねり出してみた。
 それを印刷所の方に見せて意見を聞く。どうやればコストダウンできるかを具体的に聞き、コストの安い方法を取り入れる一方で、あきらめざるを得ないアイデアもあった。
 そういったアイデアを、ここですべてをあかすことはできないが、これまで旅行人が出してきた本とはかなり異なっていることは確かだ。
 カバーの仕掛けも初めてやったアイデアだが、少部数なので、自分たち(つまり僕を含むスタッフ3人)で1冊1冊手を加えて加工する手づくりの本なのだ。だからといって手作り感のあるデザインにしたいわけではなく、つまり・・・、その部分を明かすとネタバレになっちゃうので、実際に見てもらうしかない。この写真集を「旅の本」にする仕掛けがこれなのだ。とはいえ、それほどたいそうなものでもないけど、われわれの手が加わって完成するアイデアなのだ。
 今日はカバー表部分を公開しよう。
 こういう感じになる。

 真ん中の枠の中だけ色が違うのは、カバー写真が透明のフィルムに印刷されており、真ん中の枠の部分が何も印刷されない透明なままになっているからだ。だから下の、本体表紙に印刷された写真が透けて見えているわけ。実はここにかなりのコストがかかった。
 サイズはA5変型版で、縦170mm、横148mm。小ぶりの写真集だ。
 定価は2200円+消費税。10月末〜11月初めの発売になりますので、どうぞよろしくお願いします。
 少部数なので、普通の書店にはほとんど並べることができない。新宿紀伊國屋本店とか、池袋ジュンク堂とか、そういう大型の本店に限られるが、アマゾンから買えるようにできると思います。確実に入手なさいたい方は、旅行人へお申し込みいただくのがベストです。まだサイトのページは設けていないが、発売日が確定し次第ページを作りますので、よろしくお願いします。