今年見た写真集 - 旅行人編集長のーと

　いよいよ今年も残り少なくなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。また当欄の更新が遅れてすいません。今年も1年たつのが早かったねえ。ホントに年々早くなっていく。

　今何をやっているかというと、もちろん来年早々の1月25日発売の次号「エチオピア特集」の制作真っ最中です。一応、うちの会社は12月28日で本年の営業を終わるが、下手をすると年末までずれ込むかもしれない。他にも近々出す予定の単行本やガイドブックを抱え込んでいて、いつのまにやら仕事の量が増加の一途を辿っている。本誌が季刊化された頃は、それなりに時間的余裕があったのに、今や月刊誌時代と変わらない忙しさだ。なんでこうなる？

　さて、それはともかく、最近、手元に何冊かの写真集が手に入った。買ったのは1冊だけで、あとはお送りいただいたものである。今回はそのことについて。

　自分で買ったのは、最近人気のある本城直季の『Small Planet』（リトルモア）。写真集は1万部売れたらヒット作といわれているのに、この本は3万部を突破したそうだ。ご存知の方も多いと思うが、私はこの人のことを全然知らなくて、書店で偶然この不思議な写真を見かけて思わず買ってしまった。

　以前からこの写真集のことを当欄で書こうかと思っていたのだが、どういう写真なのかを説明すると、ネタバレになってしまう気がして書けなかった。なるべくなら何も知らないでこの写真に出会う方が驚きが大きいと思ったのだが、こんなに有名になってしまったら、もう書いてもいいだろう。

　そう、この人の写真は実に不思議だ。風景写真がミニチュアのように見えてしまうのだ。なんでそう見えるのか、先日テレビ番組で解説していたけれど、ボケ方を操作すると、人間はそれを小さなミニチュアと錯覚してしまうらしい。それが実に不思議で楽しい。

　もう1冊は、バンコクに出かけた前川健一さんがお土産に買ってきてくれたもので、『BIKES OF BURDEN』（HANS KEMP／Visionary World Ltd.／2003）という写真集。ベトナムを走るバイクだけを集めた写真集で、けた外れに大きな荷物やたくさんのモノを、神業並みの運転で運んでいるバイクの写真を集めた本だ。旅行中にこういうバイクを見かけた方も多いと思うが、いやはや、よくもまあこんなものをバイクで運べるものだと感動する。

　荷物を運ぶバイクというシンプルなテーマで、ベトナム人の生活や人柄までもが伝わってきそうなすばらしい写真集だが、この本はよく売れているようで、2003年に発行されて3年間で6刷までいっている。前川さんがわざわざバンコクから買ってきたのに、実はアマゾンでも売られていて、しかもバンコクより安いというのには驚く。アマゾンの売り上げ順位を見てみると、これが意外に売れているというのもすごい。

　もう1冊は、おそらくこの中ではいちばん有名な写真家である織作峰子の『MY SWITZERLAND
』（清流出版）。何故か版元から送られてきた。スイスの観光写真集である……とは銘打っていないが、まあそういうものだ。そつなくきれいに美しく撮影されている。織作さんは大阪芸術大学の教授だそうだから、撮影技術はさすがプロである。

　この写真を形容するのに最もふさわしいのは、プリンターのプリントアウトの見本である。家電販売店に行くと、プリンターのところに印刷見本としてよくヨーロッパの街角などが印刷されていて、ほら、こんなにきれいに印刷できますよと性能を誇示している。確かにきれいに印刷されているが、プリンターの性能に感動しても、写真そのものに感動する人はあまりいないだろう。印刷見本としての美しい写真にすぎないからだ。織作の写真集に感じるのは、そういうものである。

　こうやって3冊の写真集をとりあげたが、売れないといわれている写真集でも、売れるものはあり、そういう写真集はおもしろいテーマがあることがわかる。テーマさえあればいいというものでもないが、『Small Planet』のようにこれまで見せてくれなかった世界（例えば栗林慧の『栗林慧全仕事―独創的カメラでとらえた驚異の自然』もそういう写真集だった）や、何年もかけて家屋を追い求めた小松義夫の一連の写真集など、評価され、売れた写真集には、誰も取り上げてこなかったしっかりとしたテーマがある。

　うちにも持ち込まれる写真は多いのだが、漠然と旅して撮影した観光写真や、判で押したような「人々の笑顔」写真などに意味はない。もっと考えてからシャッターを押してくれといいたい。もし本気で自分の写真集を出したいのならだ。

　さて、本年の当欄はこれで最後になるだろうと思う。毎週書くつもりでいたが、なかなかそうはいかなかった。来年はなるべく毎週更新を心がけるつもりだが、まあ、ご寛容をもってご容赦下さい。それでは、よい年末年始をお迎え下さいますよう。