インド病と腸内フローラ

 安保法制反対デモや洪水被害が起きている最中に、ばかばかしい話題を書くのも気が引けるが、ブログの休眠状態が続きそうなので、ちょっと書いてみることにした。

 半年ほど前になるが、テレビで腸内フローラの話をやった。ご覧になった方も多いと思うが、簡単に説明すると、人間の腸の中には約3万種類、1000兆個ともいわれる細菌がいて、その細菌が人間の活動に大きな影響を及ぼしているというものだ。
 それがどのような影響かというと、なんと人の性格にまでおよぶという。実験で、攻撃的な性格のネズミと、気の弱いネズミの腸内細菌を入れ替えると、その性格までが移ってしまうという。腸内細菌が出すシグナルが、腸に張り巡らされた神経に伝達され、それが脳に届いて身体全体に影響を及ぼすのだそうだ。

 こういう話を見てすぐに思い出したのが、インド旅行のことだった。僕は子どもの頃からひどい便秘症で、高校生のときはそれがもとで痔をわずらっていた。1週間や10日は排便しないのが普通で、いざそのときになると便はかちかちに堅くなって、産みの苦しみを味わい続けてきた。
 それでインドに行くと、誰もがかかるようにひどい下痢に襲われた。長い旅になると、それも一度や二度ですまない。一カ月に一度は下痢に襲われる。そのうち逆に便秘のほうが治り、どちらかというと軟便気味になった。しかもインドでは水で洗う。おかげで痔も快癒し、それ以来二度と便秘で苦しむことはなくなった。
 旅行者のあいだでは、よく「インドの水に慣れるまではがまんだね」というようなことをいう。下痢に襲われても、じょじょにインドの食べ物に対応できるように身体が慣れてくるということだろうが、これこそまさに腸内細菌がインドの細菌と入れ替わったということではないか。
 誤解ないように書いておくが、入れ替わったからといって無敵の身体になるわけではない。インド人だって赤痢になるので、当然のことながら腸内細菌が入れ替わっても防げるものとそうでないものはある。
 問題は、腸内細菌が入れ替わると本人の性格が変わるということだ。これがどこまで本当かはわからないが、もし事実であれば、おそらく僕の性格も度重なるインド旅行で精神がインド化した可能性がある。インドから日本に帰国して、東京の街の様子や、これまでの生活にひどい違和感を感じたのを僕は「インド病」だと書いたが、もしかしたらこれは入れ替わった腸内細菌のせいだったのではないか。
 インドで知り合った旅行者がいっていたが、インドから日本に帰国すると必ず下痢するという。日本で下痢するなんて身体がおかしいんじゃないのと笑ったが、腸内フローラ的には考えられる話だ。
 もっとも、帰国して日本での生活に戻れば、腸内細菌もまた日本化するわけなので、再び元の自分に戻ることになるのだが、僕は、性格はともかくとして、便秘に戻ることもなく、そのうち日本でもシャワートイレが普及して、あの嫌な痔とは訣別することができた。
 海外旅行とは腸内細菌の入れ替えだと考えると、それはそれでまた別の興味がわくことだろう。どこの腸内フローラが自分に合っているかが目的地の基準になるというわけですね。