チャリティオークション御礼

 2週間ぶりの更新になりました。昨日まで、東日本大震災チャリティオークションを行いましたが、短い期間にもかかわらずほぼすべての作品が落札され、多額の支援金が集まりました。正確な金額は追ってご報告します。ご協力くださった執筆者の皆さん、入札いただいた皆さん、本当にありがとうございました。この資金は無駄にすることのないように、被災者支援に役立てたいと思います。

 さて、オークションも無事終了し、ただいま私は引き続き次号ポルトガル特集号の制作にかかりきりになっている。今回の大震災が起きたことで、ネットでも話題になっているが、1755年にはリスボンでも大震災が起きた。推定されるマグニチュードはM8.7というから、今回の地震に匹敵する大地震だった。津波でおよそ1万人が死亡し、その後の火災によって5万5000人から6万2000人が死亡したといわれている。現在でも、震災を忘れることのないように、そのとき廃墟になったカルモ修道院が博物館として残されている。



カルモ教会(リスボン


 大震災を復興するにあたって、当時の宰相セバスティアン・デ・カルヴァーリョは、すぐに再建にとりかかった。Wikiには次のように書かれている。
──彼は消火隊を組織し、市街地に送って火災を鎮め、また疫病が広がる前に数千の遺体を処理せよと軍隊に命令した。教会の意見や当時の慣習に反し、遺体ははしけに積まれてテージョ川河口より沖で水葬された。廃墟の町に無秩序が広がるのを防ぐため、特に略奪を防ぐため、街の周囲の丘の上に絞首台が作られ、30人以上の人々が処刑された。ポルトガル軍は街を包囲して強壮な者が街から逃げるのを防いだが、これにより廃墟の撤去に多くの市民を駆り出すことができた。

 リスボンを再建するにあたって世界初の耐震建築を採用し、それはのちにポンバル様式建築と呼ばれるようになる(宰相はのちにポンバル侯爵となった)。これまでにないほど大きな道路を通し、まったく新しい都市が建設された。それは宰相の大いなるリーダーシップのおかげだと、リスボン市民は尊敬と感謝をもって彼を賞賛した。リスボンにはポンバル侯爵広場があり、そこには侯爵の銅像が建っている。



ポンバル侯爵広場


 こんなすばらしいリーダーシップのある宰相が日本にもいれば……(ため息)と、多くの日本人が思っていることだろう。しかし、強力なリーダーシップというのは、同時に強権主義と紙一重でもある。リスボンの復興に尽くした宰相カルヴァーリョ(ポンバル侯爵)に、当時の王はさらに独裁的な権力を与えた。その結果はWikiによれば次の通り。
──カルヴァーリョの権力が拡大すると、これを快く思わない貴族たちの反感が高まり、1758年にジョゼ1世暗殺未遂事件が起こった。カルヴァーリョは大貴族に対する大弾圧に乗り出し、1,000人以上を逮捕、被告は拷問によって自白を強いられた。
──国王の非嫡出の兄弟姉妹であっても例外にはならず、カルヴァーリョに敵視され修道院に幽閉される者もいた。イエズス会も陰謀に加わったとみなされ、翌年にはポルトガルから追放され、その巨大な財産は没収された。

 しかし、このような極端な権力の行使は、現在では許されないことだが、当時の風潮は王から付託された権威をふりかざすことは当然のことだっただろうし、必ずしも貴族やイエズス会が正しかったとはいえない。宰相カルヴァーリョは、貴族を腐敗した無能な集団と毛嫌いしていたそうだし、スペインなどでは追放の憂き目に遭っていたユダヤ人にも同等の権利を与え、ポルトガル本国内に黒人奴隷をもちこんだ場合、奴隷の即時解放を義務付けたという。

 こう書くと、現代の感覚ではかなり正しき人だったように思われるが、「これは啓蒙主義的な観点からの奴隷解放ではなく、労働力が不足しがちな植民地から奴隷が連れ出されるのを防ぐための労働力確保を目的とした政策であった」からだそうだ(Wiki)。彼の政治は、今でいえば啓蒙主義専制政治であり、ポルトガルの独裁支配だったのだ。当然のことだが、政治はなかなか一筋縄ではいかない。

 晩年になると、貴族を大量処刑したことがたたって、彼の庇護者であったジョゼ一世が死ぬと、次のマリア一世に疎まれ、宰相職を解任される。その後は田舎に引きこもって静かに暮らしたそうだ。

 私たちは、非常時になると強いリーダーシップを望む。それは優れた効果をあげる場合もあれば、そうでない場合もある。その見極めは極めて困難で、いいか悪いかを単純に判断できるような様相にないことが多いのだ。例えば、次のような例を挙げよう。

 ある政治家が次のような政策を行った。公共事業で失業問題を解消し、借金に首が回らなくなった中小企業のモラトリアムを実施した。また、生活保護を拡大し、貧しい人々への救援活動を行った。老人福祉の大幅な強化も実施し、有給休暇や健康診断などの労働者福祉政策を行い、自動車税を減税し、高等教育の無償化を行い、母子手当による少子化対策を行った。こんなバラ色の政策が強いリーダーシップのもとに実際に行われ、彼は人々から圧倒的な支持を受けた。その政治家の名前はアドルフ・ヒトラーだ。

 私たちの現在の宰相は、ポンバル侯爵やヒトラーのような強いリーダーシップを持っていない(らしい)。それどころか、同じ民主党の仲間からも辞職を迫られる始末。阪神・淡路大震災のときだって、当時の政府は無能呼ばわりされたが、結局のところ、自民党だろうが民主党だろうが、緊急時に迅速に対応できる政府を、私たちは持っていないのだ。こんなときにも現政権の延命になるからと自民党は協力しない。民主党は内部で権力闘争。何が起こっても自分たちの権益しか考えられない政治家が実に多いわけで、こんな連中に強力なリーダーシップなど望むべくもなく、強力な権力を与えたら、国はますます荒廃することだろう。