心霊ホテル


 先日、田舎の鹿児島に帰省したときの話である。帰りの飛行機に乗るために、兄がクルマで空港へ送ってくれた。その途中でのこと、国道沿いに一軒のホテルが見えた。兄が言う。

「このホテルはね、業績不振で売却されたんだよ。それを買った人は、ここを老人介護施設にするつもりだったらしいんだけど、介護施設は数が多すぎるということで認可されなかったんだって。それで、その人はもう一度ホテルをやろうということになったんだよ」

 なるほど。まあ、よくある話だよな。「それで、このホテルはまた再開されてるわけ?」
「それがさ、ここからが問題なんだよ」
「問題?」
「ホテルを再開するには、従業員が寝泊まりする寮がないといけないってことになって、その人は、寮にする物件を探したんだよ。そしたら、部屋数が40部屋ほどある温泉付きのホテルが格安で売ってたんだって。2000万円か3000万円だったらしい」
「それって格安なの?」
「温泉付きでその値段だったら破格の安さだよ。その人はすぐに即金で買って寮にしたわけだ」
「ふ〜ん」
「ところが、その寮に誰も住もうとしない」
「なんで?」
「出るんだって」
「出る? 何が?」
「幽霊」
「ほんとに〜?」
「ほんとに出るらしい。だって誰も住みたがらないっていうんだもの」
「幽霊が本当に出るかねえ」
「その買い主も、初めから幽霊が出るって話は聞いてたんだって。だけど、まあ、まさかと思って買ったんだよ。そしたらほんとに出るもんだから、従業員が怖がって誰も住みたがらないという話だよ」
「ほんとに出るんだったらすごいね」
「ほんとにほんとだって」
「だったら、業績不振のホテルを従業員の寮にしてさ、ほんとに幽霊が出るそっちのほうをホテルで営業したら、客が押し寄せるんじゃないの?」
「心霊ホテルとかいって」
「そうそう、絶対に出る部屋は1泊10万円だな。もしもの時に備えて祈祷師とお祓い師が次の間に控えてるわけね」
「幽霊の声だけが聞こえる部屋は3万円で、ひやっとする部屋が2万円。従業員はそこで働くのをいやがるから、従業員がいるのは日が暮れるまでだね。あとはお客様のご自由にと」
「テレビ局が押し寄せてくるよ、きっと。幽霊出現100%保証!とかなんとかいって、それでほんとに出たら世紀の心霊スポットになって世界的に有名になるよね。世界遺産も夢じゃないな」
「空港に着いたよ」
「ああ、どうも、ありがとう。それじゃ、またね」