霧島のロケットボーイズ


 先日、7年ぶりに小学生時代の同窓会があった。7年前の同窓会は、小学校を卒業してから34年ぶりで、お互いに子ども時代しか知らないまま、いきなり40過ぎの中年姿で再会することになり、さて私は誰でしょう、というクイズで大いに盛り上がった。今回はそれから7年しかたっていないので、あまりまちがえたりはしなかったが、再会した連中がみんな「去年会ったときは」というのには笑った。われわれぐらいの歳になると7年なんてあっという間。去年会ったような気がしてくるのである。


 同窓会の話題はもちろん昔話。どの子がどの子を好きだったとか、先生に怒られたときの話とか、他愛もない話だけで大いに盛り上がる。7年前には、孫ができたという男がいて非常に驚いた。40過ぎで孫ということは、親も子もかなり早く結婚して子どもを作らなければならないのだが、50過ぎになると、もう孫は珍しくないようである。それでも僕には驚きなんだが。


 昔の話をしていて、みんなに驚かれたのがロケットの話。うちの実家は昔から旅館を経営しているのだが、当時の実家にはプールがあった。そこでいつもの仲間であるシンゴちゃん、ノリちゃん、ノブちゃんたちと、ロケットを作って遊んでいた。プールでやれば火の付いたロケットが飛んでも安全だろうと考えたのだ。


 ロケットといっても、地上何十メートル飛ぶとかそういう高度なロケットではない。古いアンテナのヒューム管を10センチぐらいに切り取り、中にマッチ棒の火薬部分を切り取って詰め込む。それをローソクで熱して爆発させて飛ばすのだ。うまくいくと10メートルほど飛行する。1回目の発射は見事にうまくいき、プールの端から飛び出したヒューム管は、楕円軌道でプールの水面に着水した。もう少し火薬量を増やせばプールを飛び越せるかもしれない。


 というわけで、マッチ棒の火薬をせっせと削り取って、シンゴちゃんはそれをヒューム管に詰め込んだ。熱心にやり過ぎて力が入りすぎたのかもしれない。いきなりそれは爆発した。バンという激しい音とともに、原爆のようなキノコ雲型の煙が上がった。僕は今でもそのキノコ雲があがったのを覚えているのだが、はたしてマッチ棒の火薬程度でそんな形の煙があがるものか自信がない。僕の記憶ではそうだった。あっと声を上げて、シンゴちゃんの姿を見る。煙が晴れると、両手で顔を覆った彼が見えた。


「シンゴちゃん、大丈夫?」

 そんなことを言ったかどうかは覚えていないが、そんな不安な気持ちでシンゴちゃんのところに駆け寄る。シンゴちゃんがそっと両手を顔から離すと、彼の頬にヒューム管の破片が突き刺さっていた。卒倒しそうな心境だったが、もっと大変なのはシンゴちゃん本人だ。彼は痛みはないというけれど、とにかくその破片をそっと彼の頬から抜き取る。傷口を押さえて、治療しなければならないが、それには病院に行かなくてはならない。病院に行くには保険証がいる。それをどうするか。


 結局、ノリちゃんが、シンゴちゃんの家に行って保険証を借りることになった。シンゴちゃん本人が行くとすぐにばれるからだ。適当な言い訳を考えてノリちゃんはシンゴちゃんのお父さんに保険証を借りようとしたのだが、保険証を借りるのにごまかせるわけがない。なんで保険証なんかがいるんだと問い詰められて、すぐに事件は露見し、われわれロケットボーイズは、各自の親からしこたま怒られたのだった。


 で、こんな話になぜみんなが驚いたのかというと、この事件を、われわれ以外は誰も知らなかったからだ。そんなことがあったら、次の日にはすぐに学校中に知れ渡るのが普通だ。それなのに、そういえばこういうこともあったよねと、40年後に話すまで誰にも露見していなかったというのが驚きだった。もちろん当時のロケットボーイズは、このことは誰にも内緒にしようと誓い合ったはずだ。しかし、シンゴちゃんの傷を見れば、それはどうしたのと誰かが聞き、何度か聞かれているうちに、実はね、と事件が漏れるはずなのだが、どうやらロケットボーイズは秘密を守り合ったらしい。もっとも、僕の方は、同窓会に出席してノリちゃんがそれを話し出すまで、すっかり忘れていたのだが。


 映画でも「オクトーバー・スカイ」というアメリカのロケットボーイズの話がある。あの映画を見ても僕は自分のこの事件を思い出したりはしなかったが、あの映画をおもしろく感じたのは、忘れてはいても自分にもこういう体験があったからだろう。いつの時代でも子どもたちはロケットのようなものに憧れるものなのですねえ。


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