生きている橋


 この前テレビを見ていたら、ゴムの木で造った橋というのがコマーシャルに登場してきた。見たことがある方もいると思うが、川の対岸に生えたゴムの木の球根を向こう岸まで伸ばし、それを橋に仕立てたものだ。クボタのコマーシャルである。この橋を子どもたちが実際に渡っている。本当に使用されている橋なのである。

http://www.kubota.co.jp/ad-info/tv_cm/index.html


 いったいこれはどこなのかと思ったら、なんとインド東北部州のメガラヤで、カーシ山地にあるノングリアト村であるという。さらにネットで調べてみると、どうやらこの「生きている橋」は2004年に『素敵な宇宙船地球号』という番組ですでに紹介されていたようだ(テレビ朝日系列 「森の中に生きている橋〜東北インド・雲の谷の贈り物」)。


 それでこの橋を撮影したのが門田修さんだったのにびっくり。門田修さんは海工房というドキュメント制作会社を設立し、ヴァスコ・ダ・ガマの航跡や東南アジアの海洋文化についてのドキュメントを制作している人だが、『海が見えるアジア』(めこん)といった名著を数多く書いている人でもある。以前、「旅行人」でも「インドネシア・ハルク島生活誌」(1997年7月号)を書いていただいたことがある。その門田さんが、このノングリアト村の撮影記録をネットで公開されている「日本熱帯生態学会ニューズレター」で発表している。

海工房 http://www.umikoubou.co.jp/

日本熱帯生態学会ニューズレター(PDF) http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaste/NL/057JasteNL.pdf


 門田さんのレポートによれば、このノングリアト村は、世界で最も降雨量の多い場所として知られるチェラプンジーという町からクルマで40分ぐらいのところであるらしい。さっそくうちから出している『アッサムとインド北東部』(金井武)で調べてみたら、メガラヤ州の州都シーロンからチェラプンジーへのツアーがあることが判明する。シーロンからチェラプンジーまではクルマで約1時間半ほどであるらしい(「日本熱帯生態学会ニューズレター」「チェラプンジ滞在記」村田文絵)。


 「生きている橋」についての詳細は門田さんのレポートをお読みいただきたいが、この橋造りには大変な年月がかかるという(まあ、想像に難くないが)。まず橋を架けたい川辺にインドゴムの木を植え、それが成長し気根が出てくるのに30年ぐらいかかる。それからいよいよ橋造りに取りかかり、人が渡れるほどになるには7メートルほどの短い橋で10年、20メートルだと30年かかるそうだ。ため息が出るほどの長期工事である。


 しかし、そういう橋に対して、村人はどう思っているのかというと、政府がちゃんとした橋を造ってくれないからこういう橋を造っているが、本当はコンクリートの橋がいいと本音も聞こえてくるらしい。エコで自然ですばらしいといういうのは、あくまで快適な暮らしをしながらテレビで見る者の幻想でもあるのだ。門田さんはそのへんの苦しい心境もこのレポートで率直に述べている。


 だけど、うーん、行きたくなってきたぞ、これは。さすがにここにはホテルなどはないらしいが、村人は観光客を待ち望んでいるようだ。観光客が行くようになるのがいいのか悪いのか、それは僕にもわからないのだが。


海が見えるアジア
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