危険な体験

 この季節になると、夏に向けて海外旅行の特集を組む雑誌は多い。海外旅行で注意することや用心することなどを実例をあげて特集するのが定番なようで、僕のところにも、毎年そういったことをインタビューにくる。「クラマエさんは海外旅行のご経験も豊富ですから、危険な体験や、それを防ぐ方法もご存知でしょう?」などといつもいわれるのだ。

 先日、ロンリープラネット社の創業者ご夫妻の話を聞きに行ったことは前に書いたが、記者会見で、同じような質問を誰かが夫人のモーリーンさんにした。質問者は、ちょっと照れたようにこう訊いた。
「いつも訊かれると思うのですが、これまでの旅の中で、最も危険だと思われたことは何ですか?」
すると夫人は笑いながらこう答えた。
「確かに、その質問はいつもされます。私は38年旅を続けていますが、そういった危険な目に遭ったことは一度もないんです。だからお答えしようがありません」

 そのお答えを聞いて、僕も(僭越ながら)「そうそう」とうなづいたものである。いくら旅が長いからといって、必ずしも危険な目に遭うわけではない。僕もそうなのだ。モーリーンさんほど旅をしているわけではないが、あしかけ20年以上にわたってあちこち旅行しているけど、「死ぬほど危険な目」にもあったことがない。まあ、デング熱にかかったことが最も危険だったぐらいかな。

 というわけなので、もう「危険な体験」などを僕に質問しないで欲しいと思う。今後、もしかしたらお答えできるような経験をするかもしれないが、今のところそういうネタは僕にはありませんので、そこんとこをよろしくお願いしたいのだ。