受験シーズン(中)

 高校受験のハードさにうんざりした僕に、両親は「今だけがんばって高校に入れば楽になるから」といったが、そんなことはたんなる気休めの言葉に過ぎなかった。それがわかったのは入学式である。生活指導教師は祝辞でいきなりこう言い放った。


「皆さんは大変な努力をしてこの学校に入学したと思いますが、これからはもっと大変です。いいですか、学校の授業が終わってから1日7時間は勉強しなさい」


 1日7時間? 授業は毎日8時間だから合計15時間も勉強するのか? 毎日? 僕はその言葉を聞いて愕然とする一方、いくらなんでもそれはオーバーだろう、新入生にハッパをかけるために言っているだけなんじゃないかと思った。帰宅してから7時間勉強するには、夜6時から始めても夜中の1時までかかる。そんなことできるわけない。

 しかし、それは誇張でも何でもないことが新学期が始まってすぐに判明した。毎日どっさりと宿題が出され、宿題がなくても予習復習をしっかりやっていかないと授業についていけないのだ。僕は再び猛烈な勉強を開始した(せざるを得なかった)。


 この高校では年中行事のようにテストがあり、教科によっては毎日授業の始まりに10分テストを実施した。驚くべきは、テスト終了後に生徒間で相互採点を行い、10点満点で7点以下だと30分正座をさせられるのである。まったくなんて高校に入ってしまったのだろうと暗澹たる気持ちになった。


 新学期が始まってすぐに行われたテストは、僕としてはさんざんなできだった。どの教科も平均点以下なのだ。ホームルームのあと、担任の教師に厳しい顔で名指しされた。「クラマエ、放課後、職員室に来なさい!」ああ、これはまずい。新学期早々なんということだろう。


 放課後、僕はおそるおそる職員室へ。担任の教師の前でがっくりとうなだれた。すると教師は僕の肩をばんっとたたき、こういうのだった。
「クラマエ! 今度のテストはよく頑張ったな。席次が大幅にのびたぞ!」
「え?」
 教師はそこで初めて、入学式における僕の順位を教えてくれたのだ。それが前回述べたあの順位。530番台だった入学順位が、今度のテストで350番までアップしたという。なんと200人超えの快挙だったのだ。だから教師はわざわざ職員室まで呼んで僕をほめてくれたわけだが、僕はますます落ち込んだ。今回のテストは平均点以下だったから550人中350番前後であることは初めからわかっていた。だから落ち込んでいたのに、それをほめられるとは。ああ、なさけない。


 その後、入学式でいわれたように、1日7時間がんばったが、順位はほとんど上がっていかなかった。がんばっているのは僕だけではなかったのだ。もともと成績のいい連中が、僕と同じようにがんばっているわけだから順位が上がるわけがなかった。そこで僕はますますがんばった! と書ければかっこいんだが、そんなわけがない。すっかりめげました。だいたい1日7時間も勉強するなんてことを何カ月も続けられるわけがないのである。夏休みが始まるころには、1日2時間程度に落ちていった(机の前には一応7時間ほど座っていたが、ラジオばかり聴いていた)。


 それから、高校を卒業するまで(大きなテストの直前をのぞいて)、勉強量は減ることはあっても増えることはなかった。もちろん成績も上がらない。しかし、反対に下がることもあまりなく350番前後をキープし続けていたので、たぶんこのクラスの生徒は、僕とほぼ同じ勉強量だったのだろう。


 高校2年の頃だったか、鹿児島県議会で高校生の睡眠時間が問題になったことがある。ある議員の娘がC高校の生徒で「高校生なのに試験前はたった6時間しか睡眠時間がとれない。これは問題なのではないか」と議会で教育委員に質問をしたのだ。僕らはそれを聞いて笑った。もともとわがT高校では教師が6時間睡眠を推奨しており、試験前はほとんど徹夜であることの方が多かったからだ。試験前に6時間も眠っていたらとてもじゃないが間に合わない。


 僕の暗黒の高校生活はこのような状態で終わって、さあいよいよ大学受験へとなだれ込むのだが、また話が長くなったので、次回へ続く。