近況報告──もうすぐ元気になる予定

 3月から療養生活に入って、すでに4カ月がたった。治療薬の副作用がきつくて、発熱、頭痛、倦怠感、貧血などなどの症状で一日中寝込む日もあったが、治療も終盤になって薬の種類と量が減って副作用も和らぎ、ぼちぼち仕事を再開できるまでに回復した。ついこの前まで仕事なんかしたくねえと思っていたが、仕事ができるほどの体調でいられるのはありがたいことだ。

 この治療で私は初めて貧血の症状というものを知った。私はこれまでの人生で貧血などになったことがないので(多分)、貧血になるとどういう症状になるのか知らなかった(忘れただけかもしれない)。じっとしてるとなんともないが、立ち上がって歩こうとするとふらふらする。初めは何でこうなるのかわからなかったので、医師に症状を訴えると、「あ、それは貧血ですよ。薬の副作用です。ほら、ヘモグロビンの数値が8でしょ。10を切るとそういう症状が出やすいんです」という。田中真知さんにいうと、あきれたように「知らなかったの? 目の前が真っ暗になったりするでしょ」といわれたが、いや、そこまでなったわけじゃありません。

 その他にも、多分貧血の症状だと思うが、走る車から風景を眺めているとめまいを起こして気分が悪くなる。だから運転はできない。医師は一度も車の運転をするなと注意してくれなかったが(それぐらい自分で判断できるという意見もあろうが)。風呂もあまり長い時間は入れない。うっかり長風呂をすると気分が悪くなる(貧血のせいなのか他の薬の副作用かは不明だ)。数種類の治療薬を飲んだり注射したりする上に、その治療薬の副作用を押さえる薬も飲んだり塗ったりする。さらに水虫の薬も塗り、便秘薬まで飲むのだ。毎日この薬は朝夕2錠飲んで、この薬は一日1錠でといった具合に、覚えるだけでも一苦労なのである。

 そういうわけで、この数カ月というもの病院以外の外出もほとんどせず、仕事もせず、ただひたすら家で時間をつぶす日々を送ってきた。友人たちは本を読んだり映画を観るチャンスだというが、本も映画も見始めると気分が悪くなってくる。テレビの野球中継を薄目をあけて眺め、だいたい30分もそうやっていると、うつらうつら眠ってしまう。それがいちばんの暇つぶしだった。

 しかし、近頃は投薬量が減って、ようやく貧血状態も改善され、次第に本が読めるようになった。それで他社から依頼された装幀のために、いきなり上下巻1000ページのゲラを読むことになった。さすがに全部読むのは無理なのでざっと目を通すだけだが、それでも4日もかかって苦労した。しかし、それができるようになったというのがありがたい。仕事もなんとか間に合いそうだ。

 どの人の人生でも、50年以上生きていれば病気の一つや二つはある。実は私の人生では、病気の一つや二つではすまず、10歳で交通事故による骨折で手術3回入院3カ月、20代では中国で肺炎、30代になるとインドやタイでもデング熱やら熱病やらで入院を3度、アフリカでも長いあいだ原因不明の病気で寝込んだ。40代にはポリープ切除で入院10日。かなり病気療養の経験は豊富な人生なのである。日本ではどの病院でも治療を始めるときには、これまでどういう病気にかかったか聞かれるが、全部いうのも面倒なので、デング熱というと、ちょっと驚かれるのがおもしろい(笑)。そういうわけで、これまでなんとか元気に生きてこられてよかったです。もう少しで全面的に元気になる予定です。