小島一郎の写真

 多分、写真に興味がある方ならご存じなのだろうと思うが、私は昨日、偶然テレビ番組を観るまでまったく知らなかった(そもそも私は写真家などほとんど知らないのだが)。それが、タイトルにある小島一郎という写真家である。たまたまテレビをつけて、たまたま画面に映っていた一枚の写真に目が釘付けになった。それがこの写真だ。(※ご存じの方は今回はパスしてください)

 すごい写真ですねえ。こういうのもあります。まるでミレーのような写真だなとお思いになる方も多いと思うが、まさに小島一郎は「写真界のミレー」と呼ばれていたそうだ。

 小島一郎は青森の人で、1924年生まれ。1954年頃から死ぬまでのわずか10年間ほど、青森を中心に北国の風景を撮り続け、39歳の若さでこの世を去った。写真コンテストで幾度も入選を果たし、一度は東京に来てフリー写真家として活動したものの、行き詰まって2年で青森に帰る。再び北国の撮影を始めたが、その翌年には心臓麻痺で急死してしまう。30歳頃から写真を始め、たった10年間しか活動していないのだ。

 モノクロ写真を撮影する人には常識だが、ネガから写真を焼き付けるのに「覆い焼き」という技法がある。現在ではデジタル写真でも似たようなことが可能だが、印画紙にあたる光を部分的に覆って露光時間を調整することで、画像の濃淡を変化させることができる。小島はこの技法に特に秀でていた。上の写真で見ると、雲の描写がこの覆い焼で特に強調されている。

 こういう写真を見ると、写真とは絵画と同じで、二度と同じものを制作できないことがわかる。いくら同じネガを使ったところで、ネガはいわば下書きのようなものに過ぎず、それをもとに焼き込み作業で描写し、色調を決めていくのだから、同じものは二度とできない。小島のネガを使って、ベテランの技師がプリントしたが、小島のプリントを再現することはできなかったと番組でいっていたが、技法はわかっていても再現することはできないほど小島のワザはすごかったのだ。

 番組では、ガイド役の俳優が青森美術館の収蔵庫からプリントを見せてもらい、やはり本物のプリントは印刷とはぜんぜん違いますねとため息をついていた。確かにそうなのだろう。青森は遠いが、いつか本物のプリントを見てみたいものだ。

 その番組をほんのちょっとだけ観られます。