コーカサスの旅 グルジア2

 前回の書き込みでコーカサスからは最後になると書いたが、ホテルでネットがつながったので最後にもう一度書くことにした。
 グルジア最後の目的地であるスワネティ地方のウシュグリ村は、塔の家が密集していることで知られ、世界遺産にも登録されている。塔の家とは文字通り家が塔の形をしていて、石積みで高さ15メートルほどの高い塔を建てるのだ。なぜこんな高い塔を建てるのかといえば、外敵に対する防御のためだが、普通はこんな高い塔を一軒一軒別々に建てたりせずに、村や町全体を高い壁で囲む。中国や欧州の城郭都市のように。あるいは客家の土楼のように親族全体で防御体制を取る。
 それが、この地では一世帯で一つの塔を建築するのは、いわゆる「血の掟」という因習が存在するからだ。自分または家族の一員に危害が加えられたら、必ず相手またはその家族に復讐を果たさなければならない。だから、別の家族を敵に回すおそれがあるので、一つの家族単位で防御しなければならなかったのだ。
 同じような掟はグルジアだけでなく、建築家の渡邉義孝さんが本誌でアルバニアの血の掟について書いている。アルバニアでは塔ではないが、頑丈な石積みの家を建築し、クーラと呼ばれているそうだ。チェンチェンでも同じ掟があるというから、コーカサスを中心にこのような掟が存在するのではないかと思う。
 スワネティ地方にはウシュグリ村だけでなく、他の村にも多くの塔が建てられていて、いまだに200棟あまりが残っているという。よほど昔はこの血の掟が恐れられていたのだろう。もちろん現在では塔自体はほとんど使われていない様子だが、アルバニアで現在も血の掟が生きているように、この地でもそれは存続しているといわれている。血の掟は恐ろしいが、塔の林立する村の風景は実に美しい。

 スワネティ地方をあとにして、マルシュルートカでグルジア南部のバトゥミを目指した。山道をガタガタ揺られながら降りてきて、ランチタイムで小休止となり、道路脇の食堂に入った。すると、そこになんと写真家の小松義夫夫妻の姿があった。彼らもグルジアに来てスワネティ地方を目指すとは聞いていたが、まさかこんなところでばったり出会うとは。小休止の30分だけ話をして別れる。夫妻が乗っていたマルシュルートカは、グルジアで初めて見た旧ソ連時代のミニバンで、現在最も使われているフォードのミニバンでもけっこうきつい道なのに、あんなポンコツではさぞ大変な旅になることだろう。無事をお祈りする。
 スワネティからバトゥミへおりてくると大雨だった。それも道路が冠水するほどの大雨で、足元をびしょびしょに濡らしながらホテルに駆け込んだ。部屋のベランダから外を見ると、水がかぶった道路を車が水しぶきを立てて走っていた。それはまるで雨季で冠水した南インドマドラスで見た風景と重なって見えた。