ジャクソン・ポロック展

 今日はちょっと調子がいいので、ブログ更新に挑む。ジャクソン・ポロック展のことを、会期が終わる前に書きたかったのだが、今日にずれ込んでしまった。4月に、体調はあまりよくなかったけど、どうしてもこのポロックだけは見たくて、無理をおして見に行った。生まれて初めて美術館で車椅子のお世話になった。

 ジャクソン・ポロックについて、私はここで説明する必要はないだろうが、現代美術の最大の巨匠の一人で、アクション・ペインティングという手法で知られる。私が初めてポロックの作品を見たのは、もう33年も前になる。ニューヨークのメトロポリタン美術館で、ポロックの代表作「秋のリズム」を見た。

    「秋のリズム」

 その時の私のアメリカ旅行は、もともと現代美術を見に行くという目的だったから、いきなり彼の作品に出会って衝撃を受けたわけではない。もちろん巨匠ポロックのことは知っていた。だが、小さな写真集でしか見たことがなかった彼の作品を、縦3メートル、横6メートル近い巨大な作品の前に立つのではまったく意味が違うのだということを実感した。塗料をキャンパスの上に刷毛で降り注ぐアクション・ペインティングのリアルさは、実物の前でしか感じることができないのだ。

 日本でこれまでポロックの作品が公開されたことがあるのか私は知らないが、それほど簡単に見られるわけではないことは確かだ。メトロポリタン美術館の「秋のリズム」は門外不出だそうだし、アメリカではポロックの作品は国宝並みの扱いだから、簡単には日本にやって来ない。それが日本で見られるというこのチャンスを、どうしても見逃したくなかった。しかし、もちろん「秋のリズム」はやってこなかった。

 ポロックの作風を簡単に3つに区分すると、最も有名なアクション・ペインティング、そしてそれ以前とその後だろう。ポロックも最初はかなり平凡な画風の平凡な画家だった。キュビズムの影響を受けて、これまた平凡な抽象画家になり、自分の画風を追い求めて苦しんでいる。そこから試行錯誤のすえ、アクション・ペインティングにたどり着く。それがアクション・ペインティングの前の時代。

 そしてポロックがようやく掴んだアクション・ペインティング。私が説明することではないが、この画法の画期的なところは、キャンバスに直接触れずに、キャンバスに塗料をばらまいて絵を描いたことだ。ポロックがこれをやるまで、キャンバスに手や筆などで直接触れずに描いた画家はいなかった。今でもいない(たぶん)。それをやったらポロックの真似としかみなされないからだ。それほど革命的な画法だった。

 現代美術に興味がない人は、塗料をばらまいただけの絵がそんなにすごいのかと思われるかもしれない。実は、塗料をばらまいただだけだと、絵にならない。ポロックと同じ手法で、美大生が絵を描いた実験をやっていたが、はっきり言って見られたものではなかった。だからこそポロックは偉大なのだ。ただまき散らしたようにしか見えないアクションも、ポロックの成熟した技法に支えられ、卓越した構成力があったからこそ到達しえた作品だった。だからポロックは世界に衝撃を与えたのだ。

 だが、ポロックの絶頂期は長く続かない。それほどのスタイルを確立したかに見えたポロックだったが、新しい画風を模索してまた苦しみの時代に戻る。アクション・ペインティング以降の時代は黒い色を多用したドローイングの画風へ先祖返りしていく。

 今回の回顧展は、ポロックの絶頂期であるアクション・ペインティングはわずか1点(それに小品が数点)、残りは絶頂期前後の作品で占められていた。そのポロックの傑作の一つと言われている作品は「インディアンレッドの地の壁画」。これも実に素晴らしい作品だが、これの収蔵元はなんとテヘラン美術館。イランから貸してもらった作品なのだ。彼の絶頂期の作品を多数収集した展覧会を行うのは、今ではもうむずかしいことなのかもしれない。

   「インディアンレッドの地の壁画」

 体調がいい日に、また更新します。