ロン・ミュエク

 先日オーストラリアから帰国しました。2週間の旅行だったので、日本が懐かしく感じることはまるでないが、留守中にスワローズが7連勝していたのには驚いた。今年のスワローズは不思議に強い(と言ったとたんに巨人に1勝2敗となる)。

 オーストラリア旅行から帰国したばかりの先日の朝、新聞を見るとジェットスター航空の広告が再び目にとまった。なんと往復30000円(燃料サーチャージ込み)! これだったら私のチケットよりもっと安いではないか。うーん、もっと落ち着いてチケットを買うべきだった(いや、落ち着いたていたらオーストラリアには行かなかったかもしれんが)。

 それはともかく、旅行最後の町になったブリスベーンでは、何もやることがなくてクイーンズランド州美術館へ行った。そこで中国系オーストラリア人の展覧会をやっていた。とはいえ、オーストラリアの美術など全然知らないし(私はそこへアボリジニの絵を見に行ったのだ)、ましてや中国系オーストラリア人の美術など本当に何も知らなかったのだが、いや、驚きの現代美術をそこで見てしまった。

 実は、半年ほど前に、友人がおもしろいアートがあるといってメールで送ってくれた写真があったのだが、それがこれ。


 この写真を見て、こりゃすごいと思っていたのだが、このクイーンズランド州美術館で、いきなりこの本物に出くわしてしまったのだった。この人、オーストラリア人だったんですねえ。ロン・ミュエク(Ron Mueck)というイギリスで活躍するオーストラリアのハイパーリアリズム彫刻家であるという。これはイン・ベッド(In Bed, 2005年)という作品だそうだ。

 本物を間近で見ないとわからないが、肌の質感、シワなどが恐ろしいほど本物そっくりに再現されていて、じっと見ていると気持ちが悪くなってくるほどだ。なぜ精巧に再現されている人体の皮膚や表情を見ていると強い違和感を覚えるのはわからないのだが、この作品を間近で見ていると、現実と虚構の境界線に立って、自分の感覚が強く揺さぶられるのがはっきりと実感できるのだ。

 この作品には、もちろん触ったりすることは許されないが、もし触ったらぷよぷよとした柔らかさと、生温い体温を感じられるのではないか。毛布の中に潜り込んで女性に寄り添って横たわったら、彼女の心臓の音が聞こえてくるのではないか。じっと眺めているとそうとしか思えない。

 これまで、いわゆるスーパーリアリズムと呼ばれる平面的な絵は何枚も見てきたけれど、そのインパクトは、この巨大なハイパーリアリズム彫刻にはとうてい及ばない。機会があれば、ぜひ一度本物をご覧になって下さい。