ああ、忙しい

 あ゛〜、ようやく『アメリカ鉄道大全』が印刷所に入りました〜。疲れた〜。これで間違いなく7月30日に発売されます。

 この本で、初めて鉄道ファンの執筆者(前回は鉄道マニアと書いたが、マニアと呼んではいけないんだそうです。すんません)といっしょに仕事をさせていただいたが、鉄道ファンはすごい! みんなそうだというわけではないだろうが、本書の執筆者、松尾さんと佐々木さんのアメリカ鉄道に対する愛情というか、知識の深さというか、蓄積はとにかくすごい。鉄道を追っかけて行かない限り、絶対に足を踏みいれっこないようなアメリカのド田舎を、全土にわたって旅しているのだ。時間も金も手間も膨大にかかっている。その蓄積をたった1冊の本にするのは無理といえば無理なんだが、かなり凝縮して詰め込んであるので、鉄道ファンはもちろん、普通の人でもアメリカ旅行のお供に十分役に立つと思います。

 そういうわけで、この本の制作にかかりっきりでブログを更新できなかったが、本誌の休刊告知から1カ月、たくさんのメールやら書き込みやらをいただき(ありがとうございました)、すっかり終幕ムードが漂ってしまったが、何度も書いているように休刊は1年半後なので、今のところ仕事ぶりは普段と変わることはなく、依然として忙しいので、こっちは終幕ムードで黄昏れているヒマはないのである。なにしろこの本が終わったら、すぐに次の本『漂流するトルコ』(小島剛一著・9月初旬発売)にかからなくてはならないし、それと同時に毎年やっている「緑のサヘル」というNGOのカレンダーも作らなくちゃならないし、そのかたわらでは旅行人山荘のパンフレットも新調しなければならないし、次号本誌の準備もそろそろ本格化しなければならない。

 私の記憶では、10代半ばの頃から、日本で生活しているときに、ヒマでしょうがないという日々を過ごしたことがない(忘れただけかもしれないが)。高校までは受験勉強で忙しく、大学に入れば漫画を描くのに忙しく、大学卒業後はフリーになったので、ますます忙しくなった。私の生涯のうち最も忙しかったのは、フリーになって1年後の24歳頃のことだった。あの頃(1980年代初頭)は雑誌のバブル期で、ものすごい数の雑誌が創刊され、レイアウトやイラストの(安い)仕事はいくらでもあった。フリーは仕事を断ることができない立場にある(と私は思っていた)。いくら安くても、いくら時間がなくても、やればできる気がして、じゃんじゃん引き受けた。

 雑誌の編集部は、だいたい夜に仕事をする。レイアウトの仕事なんかは昼夜問わず注文が来る。こっちもだいたい不夜城で仕事をしているから、明け方の4時に編集部から電話がかかってきて、これから10ページ、すぐに届けに行くから、昼前までにやってくれと頼まれたりするのだ。これを断ることができない。安い仕事なのに。

 こんなことをやっていると、やはり締め切りまでに終わらない仕事も出てくる。イラストはまだかという催促の電話がかかってきて、もう印刷までぎりぎりのタイムリミットだということはこっちも十分承知しているので、できていないとはいえず、これから届けに出るところです、などとソバ屋の出前みたいなことをいう。とりあえず仕事場を出る。そして、歩きながら描く。信号で止まる30秒の間に1枚。次の信号でまた1枚。電車に乗って3枚。降りた駅のプラットホームでさらに1枚。届け先に到着したときには無事に約束のイラストを描き終わっていた。さすがにこんなことは一回でこりごりしたが。

 この頃は、一日の平均睡眠時間は3〜4時間ぐらいだった。若いからできたが、いくら若くてもこんな生活は長くは続かない。1カ月の稼ぎが100万円に到達した頃には、すっかり疲れ果てていた。こういうフリーの生活をできたのはわずか3年足らずであった。ある程度の金も貯まって、仕事をすべて辞め、旅に出てしまったのだ。あんな生活は二度とできないと思っていたが、結局日本に帰ってくると、また仕事仕事の毎日で(当然だ)、結局ヒマなのは旅行して安宿にいるときぐらいのものだったが、近頃は取材なので安宿にいても忙しいのが嫌になる。

 もちろん、私が忙しいといっても、世間にはもっと忙しく働いている人はいくらでもいるし、私が忙しい方なのかどうかもわからない。自分の実感として述べているだけである。さっき、堀田あきおさんのブログhttp://akikayo.sakura.ne.jp/を見たら、5本の連載の2本が終わってヒマになったと書いてあったが、もし月刊連載だったら毎週1本以上の締め切りがあるってことじゃないか。うー、信じられない忙しさだ。3本の締め切りでも私は絶望的な気分になるだろう。

 忙しいというと、忙しくていいじゃないですかと励ましてくれる人も多い。だが、フリーで仕事をしているときは、「忙しい=金が入る」ことになるが、零細出版社の経営者は、忙しいこと自体には何の意味もない。自分で金を払って仕事を作っているのだから、本が売れなかったら赤字になるだけだ。仕事をたくさんしたからといって金を払ってくれる人はいないですからね。ヒマでも本が売れれば儲かるんだけど、現実的にいってそんなことはあり得ないし、むしろ、忙しく働いたのに損をしたことはいくらでもある。それが世の中だ!

 何の話をしているのかわからなくなったが、ま、とにかくまだまだ忙しい気分でいっぱいで、黄昏れている場合じゃないんだぞ、ということである。でも、もう今日はそろそろ帰って、ゆっくりサッカーでも見ようかな(あ、今日は試合はないのね)。