『アメリカ鉄道大全』もうすぐ完成

 ようやく『アメリカ鉄道大全』が完成に近づきつつある。前にも書いたように、アメリカ鉄道はもちろん、鉄道についてもまったく知らなかったが、この本を読み、調べているうちに、だんだんとアメリカの鉄道が身近に感じられるようになってきた。

 最初の頃は、アメリカは鉄道後進国で、鉄道なんてたいしてないんじゃないのかと思っていた。だから、無謀にもアメリカの鉄道路線図をつくりましょうなどと著者に言ってのけた。すると、著者の松尾さんから、そんなことは無理ですと一蹴された。当然である。ネットの地図を拡大して見ると、ほんの一部の地域だけでも鉄道が網の目のように張り巡らされているのがわかる。こんなのをすべてトレースできるわけがない。無知とは恐ろしいものだ。

 校正で読んでいて、鉄道用語に悩まされた。もちろん最初から知らない専門用語だったら、調べればなんとかわかるし、最終的には著者に巻末の解説集までつくっていただいた(だから、素人でも読みこなせるようになっている)。だが、一般的な言葉でも微妙に使い方が異なっているのだ。例えば、
「車両工場で機関車の復元工事が行われた」とある。機関車の復元工事というのは変じゃないかと思って「復元のための整備?」などとアカを入れると、鉄道では、機関車を大がかりに復元する際には「工事」というのが普通なんだそうだ。また「機関車が落成した」とあるので、これもなんか変だなと思って調べてみると、鉄道用語では機関車が完成することを落成すると普通に呼んでいるようだ。まるで建築用語みたいですね。

 意外だったのは、アメリカでは実によく昔の車両が保存されているということだ。日本の保存状況など知らないので比較することはできないが、この本の中には、15の保存鉄道、博物館、それに「アメリカ動態保存蒸気機関車一覧」という項目があり、これを見ると、いかにアメリカが昔の車両などを保存しているかがわかる。「動態保存」などという言葉も今回初めて知った。つまり動く状態で保存しているということだが、驚くのは、この動態保存された機関車を実際に営業路線で走らせたりすることがあるということだ。

 こういった機関車を撮影のために走らせることを「フォト・ラン」というそうだ。「撮り鉄」のために、例えばチャーターされた機関車が、わざわざ撮影場所で乗客のファンたちを下車させ、いったんバックしてから勢いよく煙などを排出しつつ、ファンの構えるカメラの前を通過してくれるというわけ。日本では、駅などの決められた設備のある場所以外で乗り降りすることは禁じられているから、まず絶対に不可能な撮影会である。

 博物館の充実ぶりもすごい。例えば北米最大といわれる博物館がイリノイ鉄道博物館。敷地面積32万平方メートル。東京ドーム7個分だそうだ。保存車両が約400というから、数日通わないと全部を見られないほどの規模だ。ネヴァダ州にあるネヴァダ・ノーザン鉄道は「全米鉄道遺産三大聖地」のひとつと呼ばれ、銅鉱石などを運搬した鉄道を、往事の情景をそのまま残して保存されていることで知られているらしい。著者は「息を呑む素晴らしさ」と書いている。滅多にこういう表現をしない著者なので、よほど感動したのだろうと思う。こういった博物館や保存鉄道をはじめとして、アメリカの鉄道博物館は、日本とはまったくスケールが異なっているようだ。

 この本に登場する場所を確認するために、ネットの地図でアメリカ各地を調べてみたが、著者たちが鉄道の取材・撮影するために行った場所なので、いわゆる普通の観光地はほとんどない。いや、もちろんロサンゼルスとかサンフランシスコといった大都市もあるのだが、撮影場所を確認すると、例えばトキオなんて場所があったりする。アメリカに東京という地名があるとは知らなかった。それを地図で見てみると、家が一軒しかないようなワシントン州の辺鄙な場所だった(そういうことまでわかるネットの地図もすごいんだが)。それどころか、レバノンバグダッドキューバなんて地名まである。映画の『バグダッド・カフェ』って、アメリカの砂漠のなかにバグダッドという地名を付けたんですね。

 というわけで、あともう少しで最後の校正が終了する。発売は7月30日で、もうこれ以上遅れることはありません。2カ月も遅れて申し訳ありませんでした。よろしくお願いします。