数学者のビューティフル・マインド


  NHKの番組『100年の難問はなぜ解けたのか』や映画「ビューティフル・マインド」を見ると、天才的な数学者というのは、凡人にはまったく理解できないものだとつくづく思う。凡人が理解できないからこそ天才なのだが、そもそも数学者という人々の感じ方もよく理解できないと思うのは、たとえば「友愛数」というような数字に「絆がある」という感じ方をするということだ。

博士の愛した数式」という映画も、数学者が登場する映画だが、このなかで博士が「友愛数」の説明をする。友愛数というのは、ある数字の約数を全部足した数の約数を足した数が最初の数字と同じ場合のことである。といっても意味不明だが、具体的に例をとると、220と284は友愛数である。
220の約数は、1、2、4、5、10、11、20、22、44、55、110で、これらを全部足すと284になる。
284の約数は、1、2、4、71、142で、これらを全部足すと220になる。よってこの数字は友愛数となるのだ。

 お互いの約数の和が一方の数と同じであることの、どこが「美しい」のかさっぱりわからない。それがどうしたと私ならいう。映画では、ある一組の友愛数が発見されるまで30年かかったといっていたが、この友愛数がいくつあるのか(友愛数の組は無限に存在するか)は数学上の未解決問題であるらしい。もちろん未解決のままほっといても地球の平和は守られる。

 数学にはこういった未解決の問題がいくつもあるらしい。なかでも重要未解決7問題には、100万ドルの賞金がかけられている(ミレニアム懸賞問題という)。NHKの番組『100年の難問はなぜ解けたのか』の100年の難問もそのひとつで、「ポアンカレ予想」という問題である。これは、地球からロープを付けたロケットを打ち上げて、宇宙全体をひとめぐりしてきたとき、このロープの両端を引っ張って無事に回収できたら宇宙のカタチはだいたい丸いらしい。それがポアンカレ博士が予想したことだ。

 しかし、計算してみると、どうもうまく回収できず、こんがらがってしまうらしい。だから、どうも宇宙のカタチというのは単純に丸いのではないらしいが、これを解くのに多くの数学者が挑んで100年も苦労した。そしてついに、ロシアの天才数学者グリゴリー・ペレルマンがこれを解決したのである。ペレルマンは、この論文をインターネットで発表し、その後一時行方不明になり、現在でも消息不明だという。数学者のノーベル賞であるフィールズ賞も辞退し、賞金も受け取らない。変わってる人なのである。

 ペレルマンほどではないにしても、天才数学者というのは実に奇人変人が多いようだ。なかでもおもしろかったのが「ビューティフル・マインド」に登場するジョン・ナッシュだが、ネタバレになるのでこれ以上書けない。この映画を是非ご覧ください。



ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡
シルヴィア ナサー 塩川 優
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天才数学者ジョン・ナッシュの伝記。事実は映画よりも奇なりで、波瀾万丈の人生があますところなく描かれ、実におもしろい。ピューリッツァ賞の候補になった。