最近読んだ漫画

 先日、田中真知さんと話をしていたら、最近農業関係の原稿を書いたという。なんで真知さんが農業のことを書くんですかと聞くと、農業そのものではなく、農業に関係のある漫画について書いたらしい。それで紹介してくれたのが『もやしもん』(石川雅之講談社)という漫画だ。

 世の中にはこんな漫画もあるのですねえ。すでにご存知の方も多いとは思うが、いわば学園漫画である。だが、主人公が通う大学が農業大学というところが少し変わっていて、さらにその主人公は細菌が見える特殊能力を持っているという設定になっているのだ。

 今のところ、主人公のその特殊能力がストーリーに十分にいかされているとは言い難いが、それはともかくとしても、農業大学の学生生活があれこれ描かれているところが非常におもしろい。本の隅々まで著者のサービス精神があふれていて、1冊読むのにも時間がかかる仕上げになっている。

 この漫画は、うちの相田さんが持っていたので全巻借りて読ませてもらったが、ついでに相田文庫から、最近映画化された『蟲師』(漆原友紀講談社)も貸してもらった。これもまた読んでみると相当変わった漫画だ。諸星大二郎みたいな雰囲気を持っているという印象を受けたけれど、著者の漆原友紀は女性だった。

 この漫画の蟲師というのは蟲を相手にする人間のことだが、蟲というのはいわゆる虫と違い、さまざまな現象や病気などを引き起こすもの、霊魂と細菌を足したような著者の想像した生物である。1話完結の物語でさまざまな蟲が登場してくるのだ。蟲を霊魂とか細菌とかにしてしまえば、物語は単なる人情話や怪奇物だったりするのだが、蟲にすることで実に独特な雰囲気を醸し出している。

 それで驚いたのは、この作品は現在のところ第8巻が出ているのだが、ここまでくるのに10年近くかかっているということである。1冊出すのに1年ちょっとかかっているのだが、したがって最近の作品ということではなく、そんなに前からこういう作品があったんですねえ。知りませんでした。

 この2作には共通点はないけれどどちらにしても変な雰囲気の漫画だと思った。大腸菌の説明が出てくるギャグ漫画がうけるとは思ってもいなかったし、僕らが子供の頃読んでいた漫画とはずいぶん遠くに離れたところにきたものだという感慨を新たにする。かつて「少年ジャンプ」が創刊された頃、雑誌のテーマが「友情、努力、勝利」で、作家にはそれを描かせたといわれたものだ。あたりまえだが、こういった漫画にはそんな単純さはもうない。屈折した友情、報われない努力、勝ち負けのない世界が投影されているとでもいおうか。世の中がそうなってしまったのだろうねえ。