インド、マオイストの反乱

 もう11月になってしまった。今年も残り2カ月か……、なんていってる人も多いこの頃であろう。私はこのところ、ずっと本誌の製作に追われている。

 この前新聞を読んでいたら、インドの西ベンガル州で農民3000人によってラージダーニー急行が停止させられ、1500人の乗客が一時拘束されたというニュースが載っていた。記事によれば、政府がマオイストの捜索に当たって、農民たちがひどい扱いを受けたことに対する抗議行動であるとあった。3000人もの農民がこのような実力行動に出ることは異常である。よほどひどい扱いを被らない限り、あとで手ひどい報復を受けることがわかっていることなど行ったりはしないだろう。

 インドのマオイスト(ナクサライト)は近年ますます勢力を伸ばしつつあるという。そういった地域はチャッティースガル、オリッサ、ジャールカンド、ビハール、アーンドラ・プラデーシュ、マハーラーシュトラといった、先住民アディヴァシーが多く暮らす地域である。経済発展にわくインドの中で、彼らは取り残され、貧困にあえいでいる。この西ベンガル州の農民たちが、マオイストの捜索を名目に、警察からどのような扱いを受けたのかは記事に書かれていなかったが、2008年11月に西ベンガル州のラルガールでも同じような事件が起きている。

北沢洋子「世界の底流」インドの毛派共産党マオイスト)の近況
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2009/mao_now_in_india.htm

 2007年、ジンダール製鉄グループが、鉄鋼生産の「特別経済地区(SEZ)」の権利を獲得した。そして、4500〜5000エーカーという広大な工業用地を得た。
 その用地の中の大部分はラルガールの先住地域であった。インドの法律では、土地改革プログラムによって、先住民の土地は守られていることになっている。しかし、SEZ建設がはじまると、先住民は強制移住させられた。そして、環境が破壊されたため、生計の道が断たれてしまった。

 2008年11月2日、西メディニプル地区のシャルバニで、ジンダール製鉄グループのSEZの開会式に参加した州首相をはじめとする要人たちが帰る途中、地雷が爆発した。これはマオイストのゲリラが、開会式をターゲットにして、仕掛けたものであった。
 この攻撃に対する報復として、警察は、村人をマオイストの同調者として、【警察が村人に】テロを働いた。村人たちは、老若男女を問わす、逮捕され、拷問され、レイプされた。
 このような警察の弾圧に対して、何千もの村人が、槍や弓や鉄棒などの伝統的な武器を携えて、これまでの抑圧と戦うべく立ち上がった。さらに村人たちは、警察が村に入れないように、塹壕を掘り、樹木でバリケードを作った。
 ラルガールの闘争は、休みなく1ヵ月以上、続いた。このニュースは、インド中で大きな関心を集めるところとなった。
(※一部の名詞のローマ字表記をカタカナに替えました。【警察が村人に】は私の加筆です)

 例えばオリッサでは、代替地を与え、生活保障をするという約束でアディヴァシーの土地にダムを造り、約束は守られないままだ。こういうことが各地の先住民の土地で今でも起きているし、起きつつあるのだ。まるで西部開拓時代のアメリカみたいな話だが、そのアメリカだって先住民の問題が現在でも解決されていないわけで、インドでこういうことが現在起こっていても不思議ではない。

インドの先住民族アムネスティ
http://www.amnesty.or.jp/modules/wfsection/article.php?articleid=2525
苦難の先住民
http://www.jca.apc.org/~misatoya/jadugoda/koide.html

 インドでは、おそらくマオイストの運動はますます広がっていくことだろう。北沢洋子氏の記事でも、「マオイストの活動地域が、2003年はじめには、9州、55地区であったのが、2008年には、マスメディアの報道でも、22州、220地区に上っている。」という。インドの先住民というと、山の中にひっそりと住む少数派のようなイメージがあったが、実は全インドに5000万人いるといわれている。ぜんぜん少数民族ではないのである。このような人々をインドは力づくで抑え込もうとしているが、5000万人もの人々を抑え込むことができないのは明らかだ。ネパールでマオイストが出現した当初、マオイストが現在のような一大勢力になることなどほとんどの人は予想していなかった。マオイスト勢力がインドを脅かす勢力になっていきつつあることは疑いもない事実である。そのときインドは再び混迷の時代に入ってしまうのだろうと私は思う。