中国製のガネーシャ

 先日の新聞に、インドの安い神像は中国製という記事があった。がっくりくる話である。中国製は品質もよくて安いからノー・プロブレムなんだそうだが、そういう問題なのか、インド人! といいたくなってくるね。もっとも日本の仏壇も台湾製が多いそうなので、人のことはいえないわけだが、それにしても安さで中国に負けるってのがいまひとつ納得いかない。

 新聞の記事には、インドは停電も多くて設備も整っていないので、品質にばらつきがあるのだそうだ。つまり中国は大量生産が可能で、品質が揃っているのだ。機械で大量生産された神像なんてぜんぜんありがたみがないと私は思うが、それでも貧乏な人には機械であってもきちんと作られた安いものがいいと思うのだろう。

 私の知る限り、インドの神像は手づくりだ。ご存じのようにインドにはカースト制があり、誰でも商売になりさえすれば神像を作って売るということは原則としてない。生まれたときから土をこねて神様やらその他の塑像を作り続けてきた人々がいて、彼らが伝統的な手法で現在もそれを行っているのだ。概して彼らのカーストは低いので、大量生産できるような機械の購入もできないし、技術もない。

 安価な労働対価で手づくりすれば、品質にばらつきがあるのは当然のことだ。できるだけ安く、できるだけ早く作らなくてはならないのだから、ある意味、粗製濫造になるのはしょうがない。それを長年の経験と技術で、そこそこに仕上げるのが職人の腕だが、インドの手製神像は、例えば屋根もない道端で、ほとんど道具もなく作っている人々がいる割りには、ちゃんとしている。機械ではないからひとつひとつ異なるのは当然のことである。道端で売っているものは、品質のばらつきはあるが安い。

 道端ではなく、もっとちゃんとしたところで作られている立派な神像は、もちろん安いとはいえない。インドにいらっしゃった方は、立派なショーケースに、何千ルピー、何万ルピーという値付けの立派なガネーシャ像を見たことがあるかもしれない。腕の立つ職人が時間をかけて製作するもので、材料費もかかっているから高くなるのは当然で、こういうものは中国の大量製品の購入者層とはかちあわないと思うが、それでも今度の世界不況で、金持ちの印僑からの注文が途絶えて困っているらしい。
世界不況の影響、神像メーカーにも インド
http://www.afpbb.com/article/life-culture/religion/2629331/4439544

 というわけで、神像といえどもっと安くなくちゃならないのだろう。安いのがいちばんなんだろう。それで安い安いといって中国製を買って、そのすぐ隣りで、路上生活をしている人々が作るものは高いから買わないのだろう。それもしょうがないのかもしれないとは思うけれど、例えばそれが680円のジーンズだとか、100円の皿だとかいうのならともかく、自分たちが信仰している大切な神像にも、そういう心理が働くものなのかと思う。

 もっともインド人も中国製だと知らずに買わされている宗教グッズもあるらしい。インドでよく見かける菩提樹の実だが、これを結んで数珠にしたり、ネックレスにしたりする。ルドラクシャと呼ぶそうだが、一種のお守りとして人気がある。これも近頃は中国製が出まわっているらしい。インド人はインド製だと思って買っているらしいが、ヒンドゥー神像が中国製でもいいのであれば、別にこれだって中国製でも問題ないだろう。

 インターネットでもインド雑貨屋がガネーシャ神なんかを販売しているけれど、気をつけて買わないと、神像の裏に「Made in China」と書いてあるかもしれませんね。やれやれだな。

 さて、11月20日(金)に、またインドの話をさせてもらうことになっています。今度は、私よりもっとディープなインド旅行体験を持つ阿部櫻子さんとの対談です。平日なので時間の都合が付かない方も多いとは思いますが、夜7時からスタートですので、もしよかったらどうぞ。
詳しいことは↓「のまど」のサイトでご覧下さい。
http://www.nomad-books.co.jp/