『働く!!インド人』

 私は練馬区に住んでいて、以前は会社も練馬駅の近くにあった。それで、練馬駅のすぐ近くにある南インドレストランがひいきの店になっている。これからご紹介する漫画『働く!!インド人』(流水りんこ著/朝日新聞社)は、その南インドレストラン「ケララバワン」のオーナー、サッシーさんの物語なのだ。

 作者の流水(ながみ)りんこさんはインド漫画で有名な作家なので、ご存じの方も多いと思うが、本誌でも南インド特集で漫画を描いていただいたことがあったり、また『アジアカレー大全』ではサッシーさんにインタビューしたりして、何かとお世話になっている。しかし、この漫画を読むまで、インドで流水さんと知り合ったサッシーさんが、どうやってレストランを開いたか、詳しい事情を知らなかった。オビには次のように書かれている。

「インド人・サッシーが故郷から遠く離れた東京・練馬に、南インドレストラン「ケララバワン」を開業するまでの汗と涙と愛と笑いと感動の日々を、妻でありマンガ家である流水りんこが描いた痛快ドキュメンタリーコミック」

 これが実におもしろい! このオビのコピー通りの物語だが、自分の夫のサクセスストーリーを作品にするのは簡単なことではない。下手な描き方をすると自慢話に堕するだろうし、自分たちの語りにくい部分もさらけ出さなくてはならない。それを見事に漫画作品に昇華させて、本当におもしろく読ませてくれるのだ。

 普通の人がレストランを開業するだけでも大変な苦労だと思うが、それをインド人がやりとげるのはもっと大変なことだろう。これを読めばそこらへんのことがよくわかるのはもちろんだが、結局、それをなしえたのは、サッシーさんの人柄なのだろうと思う。さまざまな人々が彼を支え、サッシーさんも懸命にそれに応えて、レストランの開業へとこぎつけていく。私は本人を少しは存じ上げているので、本書に描かれた彼の人柄がフィクションではないことがよくわかる。私がよく行く練馬の店も、そこにたどりつくまでに不動産屋をかけずり回って運命的に出会った場所であることがわかって感動しました。お薦めの一冊です。