忘れる、しかも二人で

 インドへ出発した日、成田の免税店でマイルドセブンを2カートン買った。2カートン買うと、ポチ袋と腕時計がおまけについてくる。タバコの外箱に貼り付けてあるおまけをひっぺがして、バッグにしまうと、小川京子が「タバコを私のカバンに入れておこうか?」という。僕は、免税店が入れてくれたビニール袋で大丈夫だといった。

 それから飛行機に乗り、香港に到着すると、待ち合わせの時間はたっぷりあるので、ぶらぶらと免税店を見物してまわった。インドからの帰りに、またタバコを買うことになるので、いくらするかチェックしよう。するとマイルドセブンの1カートンがおよそ1700円である。うーん、これなら成田で買わないで、ここで買ったほうがよかった。すると、小川京子がいう。
「成田で買ったタバコは持ってるよね」
「え?」
 手元を見ると、ぶら下げているはずのビニール袋がない。
「あ、ない!」
「飛行機の中に置き忘れたの?」
「飛行機? いや、最後に棚の中をチェックしたけど何も残ってなかった。もっと前に忘れたんだ。ということは成田?」
「あたしがカバンに入れようかっていったじゃない。あなた、いいっていったよね」
「いったよな。でもビニール袋を持ち忘れたんだ。く〜、なんてことだ」
 こんなに長いこと海外旅行しているのに、免税店のタバコを置き忘れたのは初めての経験である。がっくり。4000円がパーだ。この前のグアテマラでも最初の方で、いきなり100ドル近い現金をすられたし、どうも最近はぼけている。
「じゃ、もうしょうがないから、ここで買い直そう」
 あらためて2カートンを買い、それを今度こそカバンにしまうべく、小川京子がカバンを開けると、
「ああ〜っ!」
「なんだ?」
「タバコが入ってたあ」
「えーっ?!」
「なんで入ってるの?」
「なんでって、あのときおまえが入れたに決まってるじゃん」
「ぜんぜん覚えてないんだけど。なんかショック〜」

 やれやれである。吸いもしないタバコをこの旅行中ずっと持ち歩かなくてはならなくなってしまった。まったくバカみたいである。

 ムンバイに来ると、街のたばこ屋でなんとマイルドセブンは売られていた。値段を聞くと90ルピーだという。現在のレートだと180円だ。それならわざわざ免税店で買う必要すらなかった。