バングラデシュが混沌としてきた

 バングラデシュが混沌としてきた。うちがガイドブックを出すと、その地域に問題が起きるというジンクスは前に書いたが、ついにバングラデシュよ、おまえもか、という感じになってきた。ところで、ラジオでバングラデシュのことを「バングラディッシュ」と発音した人がいたが、それじゃバングラの皿だよ。英語表記では BANGLADESH となるが、多分これをバングラディッシュと発音してしまうのだろう。インドのウッタルプラデシュとかヒマーチャルプラデシュと同じで、ディッシュとは発音しない。

 ま、それはともかく、近年のバングラデシュは、バングラデシュ民族主義党(BNP)と、アワミ連盟という二大政党が交互に政権を担っていた。担っていたというと、いかにも平穏な政権交代が行われたような感じだが、本当は選挙のたびにこの二大政党が流血の抗争を繰り広げて政権を奪い合ってきたというほうが実状に近い。

 バングラデシュは空港の入国管理官がワイロを請求するほど官憲の腐敗した国だが、政治家もやはり世界でも指折りの腐敗した国家で、なにかにつけてワイロワイロで、バングラデシュではこれを「チャイ」と呼びなわすが、チャイなしには何も進まないといわれている。もちろん選挙も、チャイと不正の塊で、お互いの政党がデモを起こしては流血するというめちゃくちゃな民主主義がまかり通っていた。

 で、国民ももちろんこういったことにかなりうんざりしていた。はっきりいってしまえば、このような政治が行われるのは、何も政治家だけが悪いのではなく、官憲だけが腐敗しているからでもなく、そこから利益を享受している選挙民やら国民が存在し、そういった体制を下支えているからだとも思うが、それでもさすがにみんなうんざりしている。

 それで、バングラデシュではまたも選挙が行われる予定だったが、ニュースによれば、なんと二大政党の党首を二名とも国外追放してしまうらしい。2001年の総選挙ではBNP主導の四党連合が勝利し、BNP党首のカレダ・ジアが首相の座に就いた。2006年10月で5年の満期が終了し、選挙にあたって選挙管理内閣が発足したが(バングラデシュでは選挙は選挙管理内閣のもとで行われる)、この選挙管理内閣が軍部の後押しを受けて、選挙改革をやり始めたのである。その結果が2大党首の国外追放なのだ。

 BNP党首、前首相のカレダ・ジアは、息子二人が恐喝などで逮捕されて、それを釈放するかわりにサウジアラビアへ亡命を迫られ、アワミ連盟のハシナ総裁には海外に出たところ、帰国禁止命令が出てロンドンで足止めを喰らっている。日本でいえば、小泉がアメリカへ行ったら帰国禁止になり、小沢一郎をオーストラリアあたりに追い出すようなものである。まったく思い切ったことをやるものである。

 バングラデシュに行ったとき、民主主義なんかダメだ、強力なリーダーがわれわれには必要なのだと、あるバングラデシュ人が僕にそういっていたが、その気もちが痛いほどわかる。わかるけれど、その強力なリーダーが必ずしも正しいとは限らず、正しくなかった場合は民主主義の方がまだましだったということになるわけだ。

 いまのところその強力なリーダーには、グラミン・バンクの創設者でノーベル賞を受賞したムハマド・ユヌスが待望されているらしい。日本のニュースの解説者は、この政治改革は軍部の力が大きいから、下手をすると軍政に戻る危険性もあり、バングラデシュはいま民主主義の岐路に立たされているといっていたが、民主主義でありさえすれば世の中がよくなるというわけではないのだよねえ。