世界飛び地大全

 『国マニア』の吉田一郎さんが、はやくも第2弾『世界飛び地大全 不思議な国境線の舞台裏』(社会評論社/本体2400円)を出した。今度の本もすごいよ。もともと吉田さんは飛び地研究家だそうなので、今度の本の方が本命なのかもしれない。

 一応世界には飛び地があることは知っていたつもりだが、いやはやこの本を読むと、その数の多さと種類の多様さに驚かされる。飛び地の中の飛び地の中の飛び地、なんていう複合重複型の飛び地なんてのもあるんだそうで、なぜそういうことになってしまったかという歴史的な事情が興味深い。

 僕が初めて飛び地という領土が存在するのを知ったのは、インドを旅したときのことだった。インドにはちょっと変わった州が存在することを旅仲間が教えてくれたのだ。例えばその一つが「ゴア、ダマン、ディーウ州」。地図を見るとゴア、ダマン、ディーウはインド西海岸のそれぞれまったく別の場所にあるのだ。その3カ所が一つの州を成しているのは、やはりおかしい。インドに来て、ひまにまかせて地図を眺めながら話をしたからこそ気がついたことだ。

 本書にも登場してくるが、これらの土地はポルトガルの占領地だった。インドに併合されてこのような形で残ったのだ。現在はゴアはゴア州として独立し、ダマン、ディーウは連邦直轄地になっている。同じくポルトガル領だったダードラー、ナガル・ハヴェーリーという実に小さな土地がダマンのそばにあるが、ここも連邦直轄地になっている。

 こういう例や、もっと複雑怪奇な事情によって成立した飛び地が世界には実にいろいろあるらしい。この本で僕が最も驚いたのは、ロンドンのあるホテルの一室が、ユーゴスラビアの領土になったことがある、ということだった。トリビアなら満点のびっくり史実ではないか。それがどのような事情でこういうことになったのかは本書をお読みいただくしかないが、とにかく奇怪としかいいようがない話である。

 他にも、カイラス山にブータンの飛び地があったとか、そのブータンの首都に日本人の学者が行ってみたら、実は首都が遷都されていて、それを世界に初めて明らかにした、とか、笑える話もたくさんあって興味は尽きない。400ページ以上もある厚い本なので読み応えもたっぷりです。