『からくり民主主義』
このところ、ず〜〜〜〜〜〜っとさぼっていた本欄である。すんません。とにかく忙しいというかヒマがないというか書くことがないというか。といっても、これまでだって特に書くに値するようなことを書いていたわけでもないので、とにかく書こうと思い立った。
で、本当は、ただいま制作中の9+10月合併号に書いた「沈没日記」でも紹介したのだが、ここでもちょっと紹介しておきたい本がある。高橋秀実(たかはし・ひでみね)という人の『からくり民主主義』(草思社・1800円)。
この本は、世間一般によく知られている事件や社会問題・・沖縄の基地問題とか諫早湾の干拓問題などを、再取材し、世間一般に語られているような話が事実なのかを再検討したものだ。これが実におもしろい。
例えば、上九一色村のオウム反対運動についての取材記事がある。マスコミは上九一色村の住民たちがいかにオウムによって生活が侵害されたか、いかに恐怖に脅えた日々を過ごしたかを連日報道し続けたが、今になって取材をかけてみると、ほとんどの住民たちは、別段何の迷惑も被っていないというのである。騒いだのはマスコミであって、迷惑だったのはそのマスコミと野次馬だったというのである。
「奴ら、牧草地にズカズカ入ってくるし、(中略)取材のヘリが20台近く飛んできて、あんまりうるさいんで、牛の乳が出なくなった家もあるんです」(p118)
もちろん、サティアンの隣に住んでいる住民はさすがに実害を受けたのであるが、それでも、当時盛んに報道された「オウムと闘う会」なんかは名目だけで、ほとんど活動らしい活動は行われていなかったらしい。
いったい何故? と思うが、これがまた地元の微妙な土地問題なども絡み、話はそれほど簡単ではない。わけが知りたい方は、どうぞこの本をお読み下さい。
世の中のことは、一般に噂されていることやマスコミの報道とは異なっていることが多い。それは、人々が求めるイメージがあり・・例えばオウムは悪だから、地元の人々は被害を被っていて、闘っているのだというイメージをマスコミはせっせと生産し、事実だろうが事実でなかろうが、そういうふうに「報道」することになっているからだ。
もちろんこの『からくり民主主義』に書かれてあることが、すべて事実であるという保証はない。だが、一般的に「事実」として報道され、人々がイメージしている有名な事件を、ちょっと時間差をかけて眺めてみるというこの取材方法は、逆に貴重ではないかと思う。そうでないと、次々に起こる事件や事故に、人々は驚いたかと思うとすぐに忘れ去り(そうせざるをえないのだが)、あとに残るのは、もしかしたらまったく間違っている「誤認」だけかもしれないからだ。