河野兵市一周忌

5月17日。

 1年前のこの日に、河野兵市さんが北極の冷たい海で逝った。
あれからもう1年がたったのかと思う。

 先日、吉祥寺で、一周忌として河野さんを偲ぶ会が催された。親しかった方々や冒険家仲間が何人か集まって、生前の河野さんの人柄を偲ばせる楽しい話をして下さった。1年たったといっても、ビデオに映し出されて、明るい声を発する河野さんの姿を見て、河野さんにまつわる話を聞いていると、悲しみが生々しくよみがえってくる。しかし、妻の順子さんが明るくふるまっているのに、僕なんぞが、いかにも悲しいですという顔はできない。

 その席で、順子さんが、河野さんとの出会いや、彼と歩んだ人生を書きつづった本『絆』(河野順子著/河出書房新書)を上梓したことの発表があった(前日の朝日新聞にも掲載されていたが)。
 会場にあったその本の奥付を見ると、発行日が5月17日になっていた。順子さんは、河野さんの一周忌に合わせてこの本を出されたのだ。

 わずか一年で、プロではない書き手が一冊の本を書き上げるのは大変なことだっただろう(発行までに一年ということは、書く時間はその半分程度ということだ)。順子さんにお聞きすると、「河野のことが、忘れられてしまう前に、なんとしても書き上げたかった」
 その一途な信念で、それこそ仕事もそっちのけで書き上げたのだそうだ。

絆―河野兵市の終わらない旅と夢
河野 順子
河出書房新社 (2002/05)
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