幻のシンガーソングライター

 今さらこんなことを書くのもバカみたいだとは思うが、インターネットってすごい!(笑)

 なんでこういうことを唐突に言うのかというと、先日、長年探していたレコードを発見したからだ。長年探していたと言っても、年がら年中あちこちに訪ねまわって探し続けていたわけではない。高校時代にラジオから録音した超マイナーなシンガーソングライターの歌を、何年かに一度は思い出し、インターネットで検索をかけていたという程度である。探し方が悪かったせいだと思うが、数年前にはほとんど何も引っかからなかった。それが今年やってみたら、いきなり何件もヒットしたのである。

 ラリー・グロス、といっても、ほとんどの人は知らないだろう。僕も詳しい経歴などは知らないのだが、高校時代(33年前)にNHKのFMで「シンガーソングライター特集」と銘打って、ドン・マクリーン、キャロル・キングと一緒に4〜5曲放送されたのだ。ドン・マクリーンは「アメリカン・パイ」という大ヒット曲で有名だし、キャロル・キングはウエストコーストの大御所なので、どなたもご存知だと思うが、ラリー・グロスのほうはその後まったく名前を聞かなかった。そのとき放送されたアルバムの名前すらわからなかった。

 それで、高校を卒業して東京にやってきた僕は、近所のレコード屋で彼のアルバムを探してみたのだが、何軒かまわってようやく1枚を発見した。さすが東京だと思いましたね(笑)。しかし、それは僕がラジオで聴いたものではなかった。あとで聞くと、このとき僕が買った「クレッセントビル」というアルバム(日本盤)は、ラリー・グロスのメジャー・デビュー盤だったらしい。その後もレコード屋に入るたびに探し続けたけれど、目当てのアルバムは見つからないまま時は過ぎていき、その後はたまにネットで検索するという程度だった。

 もちろん、その後、このラリー・グロスについて誰かが述べたり書いたりしたものを見かけることはまったくなかった。そういう歌手などこの世に無数にいることだろうし、さして不思議なことではない。僕自身、なんでこんなマイナーな歌手の歌にこだわり続けたのか不思議に思っているほどだが、とにかくそんな日々が過ぎていくうちに、先日、いきなりネットで彼の名前を発見して仰天したというわけである。

 僕が探し続けていたのは、「THE WHEAT LIES LOW」というアルバムだったことが判明した。サイトの中古レコード店で、このアルバムについて「ラリー・グロスの名盤」と書いてあったのには驚いた。これほど長い間見かけることもなく、知る人も少ないアルバムが、知っている人の世界では名盤と賞讃されていたのだ。カントリー歌手だったようだ。インターネットがなければ、こんなふうに再会することなど絶対になかっただろう。まったくもってインターネットってすごい。

 もちろんこのアルバムは販売されていた。しかも僕が調べた限りでも数軒の店で。ある店では中古盤で3000円。送料まで含めると3800円と割高だが、注文した。昨日それは無事に届き、感動の対面をしたが、残念ながら僕はレコードプレーヤーをすでに持っていないので聴くことはできないのだった。ははは。それで、装置を持っている友人にそのまま直送。友人がそれをCDに焼いてくれることになったので、音楽との再会はCD化を待つしかないのである。最後までまわりくどい。

 ところで、こんなマイナーな歌手ではあるが、意外なことにアマゾンを検索すると、彼のCDが何枚か出てくる。なんだそれなら初めからそれで買えばいいじゃないかとお思いだろう。ところがだ。どうもラリー・グロスさん、カントリー歌手としてまったく売れなかったせいなのか、あるいは考えが変わったせいなのか、現在アマゾンで普通に入手できる彼のCDは、なんとディズニーから発売されているお子様用の歌で「たのしいえいごのうた」なんていうCDなのである。もしこれがあのラリー・グロスであるとすれば、第二の子門正人を狙ったものと思われる。

 ついでにいうと、実はヤフオクにも出品されていた。それに気が付くのが遅かったので、オークションはすでに終了していたが、誰かが買い求めた形跡もあった。世の中にはこういうマイナーな歌を買ってまで聴く人がいるのだ。日本盤で発売された「クレッセントビル」は、割とよく出品されているようである。