JTB紀行文学大賞の授賞式

 JTB紀行文学大賞で奨励賞を受賞した前川健一さん『アフリカの満月』の授賞式に列席させていただく。場所は、なんと帝国ホテルだ。この日のために、僕は3本しか持っていないネクタイ(うち1本は葬式用だが)のうち、比較的高級そうなものを締めて式に臨んだのだった。

 大賞は、嵐山光三郎さんの『芭蕉の誘惑』(JTB刊)である。賞金は100万円だ。一方、わが前川健一さんの受けた奨励賞は賞金30万円。大賞の方が偉いから、賞金が高いというのが普通の考え方かもしれないが、本当はそれは逆なのではないか。

 嵐山光三郎さんといえば名をあげ功をとげた大作家である。100万円もらったからって、次の作品にその影響が出ることはそうないであろう。しかし、奨励賞というのは、次の作品に対する期待を込めての奨励であると考えるならば、なるべく多くの賞金を与えるべきではないか、と思う。

 前川さんに100万円差し上げたら、彼は必ずその賞金を次の作品の取材費にまわし、よい作品を書き上げる最良の糧となるのではないかと思う。うちの印税がたいしたことないからいうんじゃないんですけどね。帝国ホテルでやる費用も、奨励賞の賞金の方に回して欲しかったなあ。

 二次会で、あの西江雅之先生とお話しさせていただく。ご存知ない方のためにいっておくと、西江先生は語学の天才といわれている方で(そればかりではないが)、なんと高校生のときに「スワヒリ語・日本語辞典」を独力で作ったというほどのお方なのだ。以来、20言語以上の言葉を読み、書き、話すことができる。

 それですごいのが、西江さんは、語学として学習したことがあるのは中国語だけだということである。学習しないで、どうやって他の言語をマスターしたんですか? と聞いたら、「解析するんです」とおっしゃった。西江さんは、目的の言語が書かれてある本を買ってきて、それをじっとにらんで「解析」し、そして自分の言語としてマスターしていったのである。

 高校生の時に「ス・日辞典」をつくったときも、参考となるテキストなどないから、スワヒリ語の本を数冊買ってきて、それをにらみ、文法を解析して辞典を書いたのだという。
 天才とはこういう人をいうんだろうな。世の中にはこんな人もいるのだ、とつくづく思いました。こういう人とお話ができた幸運を与えて下さったJTB紀行大賞に感謝感謝。