ゴーゴー・インド30年のイベントを終えて(2)物販部門

 会場費+運営費のメドは立ったが、利益が出るのは物販にかかっている。そういうわけで、半年間、僕は一心不乱にグッズおよび本をつくりつづけた。一応グラフィックデザイナーである僕は、本や雑誌のデザインはいつもやっているが、トートバッグやTシャツのデザインはあまりやらない。
 なので、畑違いの作業になるが、それはそれで楽しいものだ。最近はこういうものもすべてネットで注文制作できるようになっていて、作業自体はむずかしくはないが、はたして僕が自分好みのデザインをして売れるものなのか。そこが大問題。売れないものをつくっても在庫になるだけだ。
 というわけで、いくつかのものを友人知人関係に見せて意見を聞いた。だが、みなさん好みがばらばらすぎてあまり参考にならず、結局、僕がつくりたいようにつくる結果に(だいたいこれで失敗することになるのだが)。


 大本命は「旅行人」の復刊だ。実は、イベントの話がある前から「旅行人」を1号だけ復刊させることは決まっていたという話は前にも書いた。それ以外に、『旅日記』、「公式パンフレット」、『THE ART OF MEENA』とどしどし本をつくった。この半年間はまさに怒濤の日々だった。
 いちばん気楽だったのは「蚤の市」だ。この30年、方々から買い集めてきたお土産品を3分の2ぐらい並べた。値段をつけるたびに、小川京子から高すぎる! といわれて安くしたが、一度会場に運び込んだものをまた持ち帰るのは嫌だったので、安くても売れた方がいい。そういうわけで、かなり安くしたおかげなのか、8割ほどが売れた。




ここにあるのは売れ残ったものです(笑)
ここまでの写真は小池圭一さん





 なかでも、これはいったい誰が買うのか僕自身も見当がつかなかったのが、1999年にバングラデシュで買ったリキシャ・アートだ。リキシャの椅子の背などに貼られるビニールには様々な絵が描かれているが、それがパーツとしてリキシャ専門店で売られていた。そこで10枚ぐらい買ったのだ。
 図案も色もド派手なので、日本のご家庭に飾るとかなり異様な雰囲気を醸し出すことになる。なので、よほどの物好きでないと買う人はいないだろうと思ったが、やはりほとんど買う人はいなかった。関心を示した人が数人いて実際に買った人は2人。そのうちの1人はバングラデシュ専門の大学教授で、もう1人は僕の友人の女性で「変な物を買いました」というテーマの集まりに持ち寄るために買ったそうだ(笑)
写真◆前原利行さん



 ギャラリートーク最終回に、福岡アジア美術館のキュレーターである五十嵐里奈さんがいらっしゃった。この方はこういうものに興味があることは知っていたので、残ったものを全部プレゼントした。すると、五十嵐さんは僕に「何年にどこで買ったのですか?」と聞く。1999年にダッカのお店で買いましたと答えると、実はそれが貴重な資料になるという。
 近年、こういったリキシャ・アートはダッカで観光客向けによく売られているらしい。僕が買った絵は観光客向けではなく、リキシャ専門店で買ったものだが、それが大切なポイントだそうだ。僕が買ったものにはバングラデシュ独立戦争の生々しい絵が描かれているが、観光客向けのものには、そういったものは描かれない。だから、独立戦争の絵が、いつごろまでバングラデシュ人の関心になっていたかを示す重要な証拠物件になるのだという。
 五十嵐さんの論文にはこうある。
「リキシャ・ペインターは、独立までの苦しみと喜びを大衆に伝え、ともに祝うため、独立戦争の戦闘場面やパキスタン兵が女性に暴力を振るう場面、(中略)など、独立戦争にまつわる具体的な出来事や象徴的な人物、記念碑などを写実的に描いたのである」「リキシャ・ペインティングも壁画も、後世に残されることなく、消えていくイメージであり、(中略)現在のリキシャ・ペインティングには、独立戦争が描かれることが少ない」(政治・運動と視覚表現──循環するバングラデシュ独立戦争イメージ)
 なるほど〜。売る前に写真を撮っておけばよかった。それでもこのような方の元に絵が収まって大変よかったと思います。
 さて、それでその他の物品がどれほど売れたのかというと、めちゃくちゃ売れましたとはいかないが、まあまあといったところ(けっこう売れ残りました)。集計は終わっていないが、まあ赤字にはならない(はずだ)。引き続き、近日中に旅行人ウェブサイトで通販を開始しますので、みなさんどしどしお買い求めくださいますようお願い申し上げます。
 このイベントにご参加くださった皆様、お手伝いくださった友人たち、ご協力くださった皆様にあらためて深く感謝いたします。本当にありがとうございました。かなり大変なので、もうこういう大がかりなことはやらないと思います(笑)

写真◆小池圭一さん