新刊『バルカンの花、コーカサスの虹』の制作終了(5月20日発売)


 このところずっと取り組んでいた新刊『バルカンの花、コーカサスの虹』の制作がようやく終了した。旅行人本誌に掲載したコーカサス編とルーマニア編に加筆し、あらたにバルカン編を書き下ろして1冊にまとめた。296ページとボリュームたっぷり、写真も図版も脚注もぎっしりなので、ぜひお読みいただければと思う。

 なるべく早く、当Webサイトにもアップする予定だが、当サイトから予約して下さった方、先着300人に『バルカンの旅ミニガイド』(全カラー16p)を進呈いたします。
(※この小冊子は昨年11、12月に私が行なったバルカン旅行のトークイベントで配布したものと同じです)

 バルカンやコーカサスといった地域は明るい話題が少ないが、バルカンではクロアチアなどは日本人も数多く訪れる人気の観光国になっている。しかし、それでもクロアチアの他のバルカンにはどんな国があり、どういう文化があるのかはあまり知られていない。いや、私は知らなかっただけかもしれないが、だからこそ私は旅をしてみたのだ。
 この本をつくってみて意外だったのは、バルカンとはどこのことを指すのか、実は厳密に決まっているわけではないということだった。だからクロアチア以外にどこの国がバルカンなのか、はっきりわからなくてもしょうがないともいえる。
 私はバルカンというのは地域名なのかとずっと思っていたのだが、そうではなく、政治的、文化的な概念なのだ。そんなバカな、バルカン半島の国のことをバルカン諸国というのではないかとお考えの方も多いことだろう。私もそうだった。だが、バルカンに属する国々は時代によって変化しているのだ。
 一般的に、バルカン諸国に属すると思われている国は、以下の13の国と地域である。
 スロベニアクロアチアボスニア・ヘルツェゴビナセルビアモンテネグロコソボマケドニアアルバニアブルガリアルーマニアギリシャ、トルコ(のヨーロッパ部分)
 たぶん地図を見ないとどこがどこだかわからないと思うので、地図を載せます。

 ところが、バルカンというと「ヨーロッパの火薬庫」とかいわれて、いつも紛争ばかり起こしている地域という悪いイメージがあるので、バルカンという呼称をやめて、近年の西ヨーロッパでは「南東欧」と呼ぶことにしようということになった。それでバルカン=南東欧かというと、これがそうでもないのだ。
 例えば南東欧にはギリシャスロベニアは含まれない。スロベニア中欧で、ギリシャ南欧だから。2007年になると、ルーマニアブルガリアEUに加盟したので、南東欧から外れることになった。それで、トルコを除いた残りの国を西バルカンと呼んでいるらしい。こういう呼び方は地理的な概念ではないことは明かで、政治的呼称というか、テキトーな呼び方としかいいようがない。
 1997年に、ギリシャで史上初めてというバルカン・サミットが開かれた。開催国のギリシャはもちろん参加したが、ボスニア・ヘルツェゴビナクロアチアスロベニアは、わが国はバルカンではないと不参加だったそうだ。
 ボスニア・ヘルツェゴビナがバルカンであることを疑う人はいないだろう。なんたって第一次世界大戦が始まるきっかけの事件が起こったのもここだし、ユーゴ紛争で最も激しかったのもボスニア紛争だ。「ヨーロッパの火薬庫」といえばボスニア以外にない。しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナはこれを認めていないのだ。
 というほど、バルカンという言葉は意味不明で難しいのだった。
 ちなみに、バルカンという言葉はなんとトルコ語で、「山脈」という意味なのだそうだ。14世紀にオスマン帝国がこの地域に進出してきたとき、ブルガリアルーマニアの山脈をバルカンと呼んだ。それを、トルコ語がわからない人が、あれは何だと地元のトルコ系の人に聞いて、「山(バルカン)だ」と答えたので、そうなったという説がある。それってバンコクのメナム川と同じ話だよなあ。

 というわけで、バルカン(ルーマニアを含む)、コーカサスの話がいろいろ詰まった本になりました。5月20日発売、1800円+税ですので、どうぞよろしくお願いします。