サブウェイのサンドイッチは「たまたま」短かったのか。

 先日、オーストラリアで、サンドイッチの「サブウェイ」が訴えられるという事件があった。なんでも、「フットロング」の商品名で販売するサンドイッチの長さが1フット(「フィート」の単数形、30.48cm)より短い11インチ(28cm)しかないと客が怒ったのだそうだ。
http://www.afpbb.com/article/economy/2923196/10160955

 たまたま読んでいた『たまたま』(レナード・ムロディナウ、田中三彦訳、ダイヤモンド社)という本に、たまたま似たような事例が出ていた。こちらは、フランスの偉大な数学者、アンリ・ポアンカレが、インチキなパン屋を捕まえたという話。

 ポアンカレは毎日あるパン屋でパンを買っていた。彼は買ったパンの重さを量ってみると、広告で1000グラムとなっているパンが平均で950グラムしかないことに気づく。当局に苦情を申し立て、その後は大きなパンを買えるようになったという。

 もちろん話はそれで終わらない。ポアンカレ先生は、その後もパンの重さが正常ではないのではないかと疑ってかかる。それで1年間パンの重さを量り続けるのだ。すると、なんとパンは1000グラムより軽いパンはほとんどなく、重いパンが多かった。おお、めでたし、めでたし、とはならないのだ、これが。

 重いのもおかしいとポアンカレは考える。もしそのパン屋が真面目に仕事をしていれば、1年間のパンの重さは1年分の平均より重いパンも軽いパンも誤差法則にしたがって減っていかなければならない。重いからって喜んでる場合じゃないのだ。きっとあのパン屋は、何かとうるさいわしにいちばん重いパンを渡していたに違いない。それで、他の人には軽いパンを売りつけているのだとポアンカレは推理し、また警察に訴える。

 パン屋はびっくり。なんでばれたかわからないが、やっぱりポアンカレ先生の推理通り、インチキなことをやっていて、悔い改めましたとさ。おしまい。

 つまり、この本の教えるところは、パンが重くても不自然ということだ。サブウェイを訴えた男は「今月初め、あるオーストラリア人男性がフットロングに使われているパンの長さが実際は11インチ(28センチ)しかな」いことに気がついたとあるが、この文面だと、たった1回で訴えているようにみえる。もしそれが事実だと、たった1回の事例では、フットロングの長さがつねに1フットではなかったのかは証明できない。「たまたま」だったのかもしれない、とこの『たまたま』という本は教えている。

 私たちは天才数学者ではないから、たった一度の経験で、すぐにそれを決めつける。1年間も辛抱強く観察して結論を出したりしない。この本は次のように教える。
──われわれは自分の先入観を裏づける証拠を優先的に探し求めるだけでなく、曖昧な証拠を自身の有利になるように解釈する。

 うーん、身に覚えがありますねえ。


※この本は以前、田中真知さんのブログに出てきた本です。こちらもどうぞ。
http://earclean.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-38f6.html