日本タイトルだけ大賞

 高野秀行さんのブログ(2011年11月23日)で知ったのだが、なんでも「日本タイトルだけ大賞」というのがあり、その2011年度の候補作に高野さんの『イスラム飲酒紀行』がノミネートされたらしい。結果はもうとっくに発表になっていて、大賞作は『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド』だったそうだ。

 数ある候補作の中で、私が気になったのは、
『ある日突然ダンナが手裏剣マニアになった』
家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。
 の2作だ。どちらもずいぶん長いタイトルだが、アマゾンで見てみるとどちらも漫画で、実話であるらしい。で、読んでみた。

 『ある日突然ダンナが手裏剣マニアになった。』は、タイトル通り、手裏剣にとりつかれた夫が会社を辞めて手裏剣で身を立てようとする話である。会社を辞めて旅に出るよりもっと無謀な話な気がするが、仕事が忙しすぎて手裏剣の稽古ができないという理由で、会社を辞め、道場を開こうとするのだ。それを夫に相談された奥さんも「よし、会社やめちゃいな!」と同意するというのもまた豪快。後書きで、「はたから見ればハチャメチャな生き方かも知れませんが、本人はいたって真面目なので、私は違和感なく受け入れてきました」と書いている。

 結局、この人はめでたく手裏剣道場を開く。当然のことながら生徒はなかなか集まってこないのだが、それで話は終わっている。このあと道場は繁盛したのだろうか? 手裏剣に夢中になって会社まで辞めちゃう人がいるという驚き以外に読みどころは特にない本ではあるが(手裏剣マニア以外の人間には)、それだけでもたいしたもんだといえなくもない。

ある日突然ダンナが手裏剣マニアになった (爆笑コミックエッセイ)

ある日突然ダンナが手裏剣マニアになった (爆笑コミックエッセイ)

 2冊目の『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』もまた変な作品だ。これもタイトル通り、夫が会社から帰ると、妻が毎日、死んだふりをしているという、それだけの話である。実話ということになっているものの、どこまで実話なのか少し疑わしいところがあるが、それだけの話で一冊になって、しかもそれが発売後3カ月で5刷になるというのだからすごい。

 妻が毎日、自宅で死んだふりをするというのは、なんとなく精神的な問題を抱えているんではないかと思ったりするが、同時にシュールな風景でもあり、繰り返される日常でそのシュールさと、妻の一風変わった性格を夫が分析していく。妻と知り合った回想シーンも描かれ、最後まで読むと、ある若い夫婦の愛の物語という感じに仕上がっている。だから売れたんだろうなと思う。ただ、やはりこれはすべてが実話ではないだろう。

家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。

家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。

 この2作とも、恐ろしいほど絵が稚拙である。素人か、同人誌レベルの絵といってもいい。だが、逆にそうでないとどちらの物語も成立しないだろうと思う。こんな話をうまいプロの絵で見せられたら違和感が大きすぎて読めない。その意味で、不思議な調和を保っている漫画である。実に不思議なジャンルの、不思議な内容の、不思議な作品だなあと思う。