年末にお勧めの老人映画

 テレビ放送がデジタル化されて、ハイビジョン画質で手軽に映画が観られるようになった。そのせいで、最近は、私の人生の中でかつてないほど映画を観るようになった。ケーブルテレビの映画専門チャンネルを見ると、朝から晩まで様々な映画をやっているわけだが、当然ながら私のぜんぜん知らない映画が圧倒的に多い。タイトルをネットでチェックしてから観ているが、つい最近上映されたものでも、世間ではこんな映画をやっていたのかと思うことが多い。

 そういったなかから、あまりメジャーではなく(いや実際のところ、メジャーなのかそうでないのかもわからないんですが)、変わったテーマということで、たいした参考にはならないと思うが、私のお薦めする「老人映画」ベスト5を紹介したい。私は老人が主人公の物語が好きなんです。年末年始の休みにでもお楽しみいただければ幸いです。

第5位:ストレイト・ストーリー
 老人が主人公のロードムービーデヴィッド・リンチ監督作品なので、マイナーな映画ではないがリンチ・ファンには毛嫌いされている話題作。73歳の老人が、心臓発作で倒れた兄の元へトラクターに乗って駆けつけるというシンプルな話だが、のんびりした旅の途中で起きるハプニングと、美しい風景が見もの。広大なアメリカ大陸を時速8キロのトラクターで旅をするというだけで観たくなってくる。

第4位:みなさん、さようなら
 末期ガンを患った男が、友人や家族に見守られながら最後の時を迎えるという話。こう書くとなんだかひたすら暗い話のように受け取られそうだが、最後を迎えるまで友人や家族と交わす会話が下ネタジョークの連発で、暗さは微塵も感じられない。考え方の異なる家族、決して若くはない友人たちに囲まれて、時代遅れの左翼インテリである男が静かに死を迎える。こういうふうに死ねる人はなかなかいないだろうが。

第3位:人生に乾杯!
 珍しいハンガリー映画社会主義時代の年金で生活していた老人夫妻が、体制が変わって年金だけでは生活できず、ついに銀行強盗をやらかすという物語。果たしてよれよれの老人に銀行強盗が可能なのか。はたして老人夫妻の運命やいかに。あまり説明を読まずに観ることをお薦めしたいが、最後の結末がすばらしい映画。

第2位:アバウト・シュミット
 ジャック・ニコルソン主演で、マイナー映画とはいえないかもしれないが、派手な映画ではない。定年を迎えた男が、退職後の生活になかなかなじめずにいたところに妻が急死する。それをきっかけに男は旅に出てしまう。定年後の手持ちぶさたな日々という意味では、日本の男にも通じる話で、悲哀、孤独、老害、俗物性などをジャック・ニコルソンが見事に表現する。それがせつなく、いい。

第1位:ヤング@ハート
 最近テレビでやったのを観たばかりです。ヤング@ハートは実在するコーラスグループで、平均年齢80歳という老人音楽隊のドキュメント映画。欧米ではかなり人気があるそうで、来日公演も行ったという。老人たちが歌うのはソニック・ユース、クラッシュ、コールド・プレイといった最新のロック音楽だ。平均年齢80歳だから、彼ら自体はよれよれなのだが、歌はすばらしい。特に、コールド・プレイの「Fix You」は聴き応え十分。映画収録の最中に2人もメンバーが亡くなってしまうところにリアリティがある。

番外:森の中の淑女たち
 本当はこれを1位にしたいところなのだが、この映画、日本版DVDにもなっていないし、テレビでもやらないので、残念ながら観ることはほぼ不可能だ。おばあちゃんたちを乗せたバスが森の中で故障し、付近のコテージに避難するという話。助けが来るまで彼女たちはのんびりと過ごすのだが、この映画はほぼ全編がその様子を描いたものだ。彼女たちは池で釣りでもしながら、自分の青春時代、家族、老いなどなどさまざまな話をする。それがすばらしいんですねえ。もし観るチャンスがあったらぜひともお見逃しなく。(1990/カナダ映画