困ってるひと

 朝日の書評でも大々的に取り上げられ、アマゾンでもよく売れている本なので、ご存知の方も多いと思うが、高野秀行さんがプロデュースした「難病女子による、画期的エンタメ闘病記」を読んだ。なんか最近、石井光太さんのエイズ本から始まって、高野さんの腰痛本、堀田あきお&かよさんの不妊治療本と、治療に格闘する本をよく読んでいる気がする。

 この本は、難病を発症した大学院生の女性が、その治療に格闘する日々を綴ったものである。普通こういう本は、当然のことだが悲劇的でありつつも、勇気を持って戦う病人の涙を誘う闘病記というパターンが多い……、と書いてみたものの、実はあまり読んだことはないので、そうじゃないかと思うんだが、私が最近読んだ闘病に関する上記の本で、悲劇的だった話は、石井さんの『感染宣告』の一部ぐらいで、涙を誘う本は皆無だ。私が「涙を誘う」(と謳い文句のある)ような本は読まないからかもしれない。

 治療が大変で極めて苦痛の多い病気にかかっているにもかかわらず、著者の書きっぷりは元気がよくて、威勢がよくて、しかも読者を笑わせようとエンターテインメントに徹している。とても重病人が書いたものとは思えないほどだ。私も子どもの頃、骨折で何度か手術したことがあるが、そういう病人の息子に向かって父が病気の詩を書けというので閉口したことがある。そんなものを書く気になるか、普通。どういう発想の持ち主なのか、今もって謎の父ではあるが、それはともかく、この本では病気の身で体力が衰えているときに、元気のいい文章が書けるというのが最も驚きだった。

 この本で知らされるのは、病気と闘うと同時に、病気を取り巻く社会とも闘わなくてはならないということだ。それは現代の医療制度でもあり、あるいは独善的で頑固な医師の姿勢であったりもする。病気と闘うのも大変だが、一介の大学院生には巨大な医療制度と挌闘するのも、闘病と同じぐらいに大変なことなのだ。私ならすぐに音をあげるだろうなと思うが、彼女はネットを駆使して病気や治療について調べ上げ、医師に反論し、病気や医療制度と闘っていく。その姿勢があっぱれである。

 それをギャグ混じりのエンターテインメントに仕立てたからこそ、この本は売れたのだろう。残念ながら私にはついていけないギャグが多いのだが、ギャグのことはさておき、よくがんばって書いた本だと思うし、たくさん売れてよかったと心から思う。大野さんが元気になって次に何を書き出すのだろうか期待している人は多いと思うので、早く病気が治って元気になりますように。