核のゴミ問題

 福島の原発事故が起こったせいで、世間は「反原発派」と「原発推進派」、そしてその「中間派」で論争が起きている。さまざまなことがいわれているが、どのような主張であれ、最終的な核のゴミ問題を解決するにはいたっていない。もちろん反原発派が主張する原発反対の論拠の一つは、この核のゴミ問題だ。

 それを、解決できると言い切った人がいる。池田信夫というお方だ。
 池田信夫blog「核のゴミ問題は解決できる」
 http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51710655.html

 それでは、どういうふうに解決するのかというと、二つの方法があるらしい。
 一つは「放射性廃棄物をドラム缶に入れて日本海溝の底1万mに投棄する」
 二つ目は「途上国に核のゴミを「輸出」する」

 いったいどういう神経でこんなことをいうのか目を疑うが、なにしろアルファ・ブロガーとして高名な方のご意見なので、ちょっと拝聴してみよう。

 まず、放射性廃棄物をドラム缶に入れて日本海溝の底1万mに投棄することは、技術的には何の問題もないらしい。投棄して「しばらくするとプレートの中にもぐりこんで危険はなくなる」んだそうだ。

 次に、途上国に核のゴミを「輸出」することは、「途上国に開発援助と交換で引き取ってもらうことは可能」だという。「取引に応じてくれる途上国はいくらでも見つかるだろう。世界には人の立ち入らない砂漠や山地はいくらでもあ」るという。

 池田氏が自ら書くように、放射性廃棄物の海洋投棄はロンドン条約で禁止されているし、輸出することもバーゼル条約に違反する怖れがある。こんなことをやったら「国際世論が許してくれるかどうか」という「もっぱら政治的な問題」だという。

 あきれはてた話である。ロンドン条約を脱退すれば海洋投棄が可能だというのは、つまり経済性を優先して、政治的にロンドン条約など無視せよといっているわけだ。ロンドン条約を脱退してしまえば、ロシアが再び日本海に核廃棄物を投棄しても、批判することはできなくなるだろう。また、途上国に札束をちらつかせて核のゴミを引き取らせればOKなどというが、貧困の弱みにつけ込んで「開発援助と交換で」などと、よくもまあ言えたものだ。

 世界には人の立ち入らない砂漠や山地はいくらでもあるというが、貯蔵される放射性廃棄物の危険性は数万年だ。数万年の時間スケールで「人の立ち入らない砂漠や山地はいくらでもある」などと簡単にいえるわけないだろう。砂漠化などわずか数千年で起こってしまう。

 実際にこんなことをやったらどうなるのか、それは「もっぱら政治的な問題である」と池田氏は簡単にいうが、その政治的問題をどういうふうに克服できるというのだろうか。国際世論が許すかどうかの前に、われわれ日本人がそんなことを許していいのかという問題だ。このような愚にもつかない方策しかないのが「核のゴミ問題」なのだろう。